謙也くんのことは大好きだけど。それはお兄ちゃんのような人だから。
だから恋愛対象として好きな訳じゃないの。
それを笑って白石さんに伝えたら驚いた顔をして、何故だか哀しそうな何とも言えない顔をしていた。
どうして。どうして哀しそうにするんだろう。
「わたし、しら…」
「はは、勘違いして堪忍な」
「え?」
白石さんのことが好きなんです、と勇気を出して言おうとしたら、謝られてしまった。
まるでわたしの言葉を無理矢理遮るようにして。
「いきなり告白とか驚いたやろ。ほんま気にせんでええから。いつも通りに接してや」
それだけ早口で告げて、ほな帰ろかと言ってわたしの家の方に歩き出す。背を向けた白石さんに話しかけることはできなかった。
話しかけられない雰囲気なんだもん。
そのまま無言でわたしの家についてしまう。玄関先で白石さんを見上げると、困ったように彼は笑った。
「なんや、彼女を家に送り届けとるみたいや…」
後ろの髪の毛をくしゃっと掻いて、堪忍なと謝る。
今しか、ない。
「しりゃいししゃんっ」
あ、噛んじゃった…!!!はは恥ずかしいよ。名前噛んじゃうなんて、なんて失礼なんだろう。あぁ、もう何でこんな失敗ばっかりしちゃうの。
「…ふはっ、どないしてん?」
一瞬キョトンとしていつものように笑う。きっと真っ赤であろう顔を、見られないように俯く私を覗き込んで微笑む。
だから、もっと赤くなってしまう。
「あの、ですね…その…」
「名字さん、落ち着き。どこも行ったりせえへんから」
わたしの頭を優しく撫でて、はっとして手を離した。ちょっと残念。もっと白石さんの温かい手に触れていて欲しかったのに。
「勘違い、してます」
「ん?勘違い?」
小さく息を吐いてから、勇気を出して白石さんと目を合わせる。
髪の毛と同じ優しい茶色をした瞳としっかり目が合う。それだけでわたしの心臓は破裂そうな程音を立てて、ドキドキと大きく脈打つ。
もしかしたら白石さんに聞こえてしまうんじゃないかって思うくらいに。
「わたし、好きな人、います」
「…おん。知っとるで」
白石さんは目も逸らさずに答えた。
うん、好きな人がいることは前に言った。でも…謙也くんじゃない。
「謙也くんじゃ、なくて」
「…あぁ、勘違いして堪忍な」
「あ、はい。それで、えと、そうじゃなくて…」
言わなきゃ…。
白石さんの、誤解を…解かなきゃ。
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