怒ってる理由はわからないけど、でもわたしが原因なのは確かだ。

だから謝ったのに、白石さんは訳がわからないという顔をした。



「名字さん、今度は何を勘違いしとるん?」



苦笑いしてわたしの頬に手を当てた。白石さんが触れているところからじんわりと熱が広がり、体温は上がるし、顔は真っ赤。



「俺、そんな怒っとるように見える?」

「…ごめんなさい」



尻すぼみに謝ると白石さんはふぅっと息を吐いた。

見上げるととても怒ってるようには見えない顔で、むしろ優しい眼差しでわたしの顔をじっと見つめた。



「あ…あの…白石さん?」

「怒っとるよ」



真剣な顔でわたしに伝えた言葉に息を飲む。


やっぱり怒ってるんだ…。理由はなんだろ。電話かな…。



「名字さんは俺のこと信用できへん?」

「え?」

「様子がおかしい理由は謙也には話せて俺には話せへんことなん?」



謙也くん?何で今謙也くんが出てきたのかな。わたし、謙也くんにまで何かしてたのかな。

あれ、でも謙也くんはにやにやしながら帰っていったよね。怒って…なかった、と思う。でもその時白石さんは溜め息吐いていて…。



「わたし、謙也くんにも何か…」

「名字さん、俺の話最後まで聞いて」



目を合わせるようにわたしの顔を上へ向ける。その強い真剣な瞳にわたしは何も言葉を発せなくなってしまう。



「俺、正確には怒ってるんとはちゃうな」



照れ笑いの様な、苦笑いの様な笑顔を浮かべて呟いた。そして白石さんはわたしの頬に当てていない方の手でわたしの腰を引き寄せた。


そのせいでわたしと白石さんの距離はなくなった。


わたしの心臓はバクバクと大きな音を立てる。腰に回る逞しい腕と、白石さんの熱い体温が、これは夢じゃないと教えてくれる。



「あの、あの…し、ら…」

「妬いた」

「え…?」

「せやから、謙也に妬いたんや。やきもち。嫉妬。わかる?」



まるで小さな子供に教えるように優しい顔で白石さんは首を傾げる。その姿が本当に綺麗で、わたしはただただ無言で何度も頷く。


やきもち…って好きでもない人には妬かないもの、だよね…?

わたし、自惚れてもいいのかな。白石さんのこと好きだからって都合良い解釈してるだけじゃないよね。



「…名字さんのこと、好きやねん」

「ほ、んと、ですか…?」



俄に信じられなくて、途切れ途切れに聞き返す。すると白石さんはにっこり笑ってもう一度言葉を続けた。



「ほんま。好きやから、俺と付き合うてくれへん、かな?」



この日のこの笑顔は一生忘れないと思った。

それほどに白石さんの告白は、素敵で、本当に嬉しかった。



戻る