春。
わたしは高校2年生に進級した。
桜が満開で、周りを見れば真新しい制服に身を包んだ新入生。でもその中に男の子はいない。だってここは女子校だから。
春が出逢いの季節だとか恋の季節だとか、あまりわからない。この学校では男の子に会うことはないから。
それなのに、友達には彼氏がいる子がいっぱいいて。わたしも恋がしたいなぁ、なんて上の空に考える。
「名前には彼氏候補いるやんか。イケメンの幼なじみが」
いつだか一緒に映ってる写真を見られて以来、よくそう言われる。
幼なじみは確かにイケメンなんだと思う。でも幼なじみ以上の何者でもない。
そもそも彼には好きな子がいる。それもすごく可愛い子。
「おぉ、名前やんか」
最寄り駅で噂の幼なじみ、謙也くんに会った。
実は久しぶり。幼なじみと言っても中学から違う学校に通うわたしたちはあまり会わない。たまにこうやって帰り際に会うんだけど。
「今日は花女も早いんやな」
花女とはわたしの通う高校の花園女子高校のこと。謙也くんの通う四天宝寺高校の隣の駅のとこにある。
「謙也くん、部活は?」
「今日はミーティングだけやってん」
「謙也」
謙也くんを呼んだ声がして気づいた。謙也くんの後ろにすっごくカッコいい人がいる。
長身でミルクティー色の外はねの髪、そして白い肌。謙也くんと同じようにテニスバックを持ってるから多分謙也くんのお友達。
「あぁ、白石。スマンな。こいつ俺の幼なじみや」
「名字名前です」
ぺこりと頭を下げられば、謙也くんの後ろにいた彼はふわりと笑った。
「俺は白石蔵ノ介や」
類は友を呼ぶって本当なんだ。謙也くんもイケメンだと思うけど、白石さんもイケメンだ。
というよりこんな人が世の中にいていいの?カッコいいし背も高いし。謙也くんと同じように、きっと白石さんもモテモテなんだろうなぁ。
「名字さん?俺の顔に何かついとる?」
「あ、いえ、何でもないです」
あまりのかっこよさに見とれてしまったことに気づかされ、すぐに赤くなる。そんなわたしを見て謙也くんは横でクスクスと笑ってた。
「白石のかっこよさに見とれとったんや」
「ちち違うよ!!何言ってるの」
謙也くんのクスクスがニヤニヤに変わる。
図星だよ。流石、幼なじみ。
謙也くんには全部お見通し。でも白石さん本人がいる前で言わなくてもいいじゃない。
「ほーん、ちゃうんやー」
「謙也くんの意地悪…っ。白石さん、気にしないでくださ…て、え?」
見ると白石さんはクスクスと笑ってた。ちょうどさっきの謙也くんと同じように。
わたし何か笑われるようなことしたかな。恥ずかしい。
「名字さん、かわええなぁ」
笑われた理由を考えてたら白石さんがわたしに爆弾を投下した。それも素敵な笑顔で。
自分の顔が、体が、熱を帯びるのがわかった。多分顔なんて真っ赤だ。可愛いなんて、言われたことあんまりないもん。
それに言ってくれた相手がかなりの美男子。ドキドキしない方がおかしいよ。
「白石、あんまり名前をからかわんといてやれや」
ポンと頭の上に置かれた謙也くんの手で現実に引き戻される。なんだ、からかわれてただけか。うん、そりゃそうだよね。
「いやいや、結構本気やで」
そう言いながらまだ少し笑ってる。わたしの心臓はまたドキッと跳ねた。お世辞ってわかってるのに。
白石さんは謙也くんと中学校も同じで、部活もテニス部で一緒だったらしい。家も意外と近いみたいだったから、3人で途中まで一緒に帰ることになった。
「白石な、テニスめっちゃ強いねんで」
「謙也くんよりも?」
テニスのことはあんまりわからないけど、謙也くんがすっごい強いのは知ってた。中学生の時、大会で勝ったとかって何度も聞いてたから。
「…おん」
「何や、今の間は」
白石さんが笑う。謙也くんは口を尖らせた。
謙也くんがこうやって男の子同士で話してるのを見るのは久しぶりだ。いつもはお兄ちゃんみたいな感じだし。
「ほな、俺こっちやから」
駅から3つ目の信号で白石さんと別れる。
「またな、白石」
「おん。名字さんも」
「は、はいっ」
声かけてくれると思わなくて思いきり返事をしてしまった。そんなわたしに白石さんは元気ええなぁ、とまた笑う。
白石さんはよく笑う人なのかもしれない。
「名前」
白石さんと別れて謙也くんと2人で歩いてると、謙也くんが立ち止まった。
「白石に惚れたやろ」
わたしの目の前にはまたしてもニヤニヤしてる謙也くんがいました。
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