「名前、とりあえず落ち着き」
下げていた頭に手が乗ってくしゃくしゃとわたしの髪をかき回す。それは謙也くんの手で、わたしは黙って頭を上げた。
「あんな、名字さん。俺は怒ってないで」
困ったような表情で白石さんが笑った。
わたし、嫌われてない…?
「電話で様子がおかしかったから気になって、な。謙也に連れてきてもろたんや。せやから怒ってへん」
今度は優しそうな笑みでわたしを見る。
それだけでわたしの心臓はドキドキと音をたてて、顔も赤くなる。
「名前は早とちりすぎや」
ケラケラと笑う謙也くんを、頬を膨らまして睨むとまた笑われた。
どうせわたしのこと子供みたいに思ってるんだよ。だから白石さんだってわたしのこと妹みたいに見るんだもん。
「名字さん、ほんまは何かあったんとちゃうの?俺でよければ話聞くで?」
「え、あ、いや…」
まさか、白石さんから連絡が来なくなって落ち込んでました、なんて本人には言えないよ。
しどろもどろになって謙也くんを見ると白石さんに見えないようにニヤニヤしていた。それから白石さんの肩に手を置いた。
「名前は俺が居ったら話しにくいみたいやから、帰るわ」
残念とでもいうようにわざとらしく首を横に振る。それからわたしたちに笑顔で手を振って、うちの玄関を出ていった。
閉まったドアを見てわたしは赤面、白石さんは…溜め息を吐いた。
そりゃあこんな押し付けられるように任されたら面倒だもんね。わたしはこれ以上白石さんに嫌われたくないのに。
謙也くんが余計なことしちゃうから。
「あの、本当に何もないです。謙也くん、何か勘違いしてるみたいで」
白石さんは黙ってわたしの話を聞いているけど、なんだか釈然としない顔。というよりムッとしているように見える。
「名字さん、ちょお時間ある?」
なんだかご機嫌ななめな白石さんの雰囲気に飲まれるように頷いた。
お母さんにちょっと出てくることを伝えてわたしたちは外に出た。
無言でスタスタと前を歩く白石さん。
何で怒ってるんだろう。
わたし、また気づかないうちに何かしちゃったのかな。それともやっぱり電話のこと怒ってて、謙也くんの前では怒れなかったとか。
「あっ、の、白石さん…」
「…」
近所の公園で立ち止まりはしても振り向いてはくれない。呼び掛けても無視される。
嫌われるのはやだよ。
「ごめんなさい…」
「は?」
やっと振り向いてくれた白石さんの顔は驚きと戸惑いの色だった。
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