俺の気分とは裏腹にムカつくくらい気持ち良い天気。
人がへこんどるっちゅーのに神様は機嫌がええらしい。
「…はぁ」
今日何度目かの溜め息を吐いて終業のチャイムで教科書を閉じた。
あかん、今日は全然集中できへんかった…。
「今日は溜め息ばっかりやな」
部活に行くのに声をかけてきた謙也を一瞥して危うくまた溜め息をつきそうになった。
高三で謙也と同じクラスになったのは予想通り。謙也は医学部志望で俺は薬学部志望やから。
「あーまぁ、ちょおいろいろあってな」
苦笑いして立ち上がる。
俺の悩みに謙也は少なからず関わっとるから話すわけにもいかへん。
「大丈夫なん?話くらい聞いたってもええで〜」
「平気やって。ほら、部活行くで」
名字さんの想い人やろう謙也に何を話すんや。
今でも頭の中で名字さんの声が木霊する。好きな奴が居るってはっきりと言うた声が。
それが謙也やってことは薄々感づいとる。幼なじみで小さい頃から一緒に居るし、俺が言うのも何やけど謙也はええ奴やから。好きになる要素もあると思う。
名字さんが謙也のこと好きなんは当然でもあるし、しゃあないことやってわかってんねんけど。
なんやこのモヤッとした気分は…。
「はぁ…」
「あら〜ん?ラブマスター小春が恋の溜め息をキャッチしちゃったわよ〜」
「ラブマスターって…。ちゅーか小春、抱きつくな。着替えられへんやん」
「蔵リン!!そんなん言わんといて。アタシに相談してや」
ウィンクをもらってまた苦笑。
今日はほんまにちゃんと笑てへんな、俺。それより俺のこの憂鬱な気分はもう認めるしかないんやな。
恋…か…。
俺、名字さんが好きなんやな。一緒に出かけて楽しいと感じたんもその証拠。
「部長、しっかりしとってください」
「財前?」
「自分で言うたんやないスか」
嫌みを言われてさらに落ち込む。
好きって自覚してすぐに失恋って。
よう考えたら俺ちゃんと恋愛したことなかったな。付き合ったりとかはあったけど。
いつも受動的な恋愛。
それに高校入ってからは一度も彼女がいたことはない。好きな子居らんかったし、何より部活に集中したかったから。
あぁ、そうや。俺はこの部の部長で一番年上なんや。もっとしっかりせな。誕生日にも財前に自分で言うてたやん。
「そうやな。しっかりせな」
そうや、部活を蔑ろにしたらあかん。
頬をパシンと両手で叩いて気合いをいれる。
名字さんのことは…とりあえず後や。今は部活や。集中集中。
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