そのまま帰るのか聞かれて帰るって言ったら、送ると言ってくれた。何度断っても頑なに譲ってはくれないから結局大人しく送ってもらう。
わたしの家の前で白石さんはいつもの笑顔でほなな、と言って帰ろうとした。
「あ、あの!!」
とっさに白石さんの左腕を引っ張ってハッとした。ジャージから見える左手には白い包帯が見える。
怪我…してる?
今わたし思いっきり掴んじゃったよ。どどどどうしよう。痛かったかも。
ちらりと白石さんの顔色を窺うと不思議そうな顔でわたしを見てる。
痛くなかったのかな。良かった…。
「ごめ、んなさい。怪我痛くなかったですか?」
「怪我?」
手を離して見上げるときょとんとしている白石さん。それから自分の左手を見てあぁ、と声を上げて何故か納得したみたい。
「怪我やない。ちょっとしたおまじないや」
「おまじない…?」
クスクスと笑って包帯の巻かれた手を振って見せた。全然痛みとかはなさそう。
「で、どないしたん?左腕のこと聞きたかっただけ?」
「…」
「黙っとったらわからんよ?」
わたしに向き合ってくれて頭を撫でてくれる。優しい瞳に嘘を吐きたくなくて勇気を振り絞って言うことにした。
「さっきの…」
「さっき?」
白石さんは言葉の続きを促すよいにわたしの顔を覗き込む。
綺麗な顔が目の前にきてわたしの体温は多分上がったと思う。
夕暮れ時で良かったかも。きっと今顔赤い。
「質問…。好きな人いるか、って」
「あぁ。ええよ、答えんで。気にせんといて」
「ちが、違うんです」
わたし、意味わからないこと言ってるなぁ。白石さんのこと絶対困らせちゃってる。
でも今言わないといけない。そんな気がするの。
「…好きな人、います」
「…」
頭の上の手がぴくりと動きを止めた。今度は白石さんが黙ってしまう。
「合コンは、知らないまま友達に連れて行かれて。だから不可抗力、というか…」
言葉尻がどんどん小さくなって視線も足元に落とす。
言い訳かもしれないけど。でも白石さんには本当のこと知っていて欲しいんだもん。
「行きたくて行ったわけじゃないんです…」
そこで漸く白石さんを見上げるとまた哀しそうに笑っていた。
どうして…。
本当のことを言ったのにそんなに苦しそうなの。
それなのにどうして笑ってくれようとするの。
わたしは白石さんのそんな顔が見たいんじゃないのに。
「そっか」
白石さんの手がぽんぽんとわたしの頭の上で動いてから離れていった。
「好きな奴居るのに俺なんかと居ったら誤解されんで。合コンとかも極力行かん方がええ」
わたしの目を真っ直ぐ見て真剣に言う。
誤解、ってわたしの好きな人は白石さんなのに。
「わかった?」
首を傾げて、ん?と聞かれる。わたしはただ黙って頷くしかできなかった。
そんなかっこいいことしないでください。わたし、どうしようもなく白石さんのことが好きなのに。
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