今まで、言ってもそう何回もじゃないけど、見てきた白石さんとは少し雰囲気が違う。

何というか、怒ってる。そんな感じだと思う。

わたしの知る白石さんはいつも笑顔の優しい人だから、ほんの少しだけ、怖い。



「白石さん…?」

「島本、その子喰ったら許さんで」



喰う…?どう意味何だろう。

でもあんまり良い意味じゃないのはわかる。白石さんはまだ怖いままなんだもん。



「白石の知り合い?」

「……妹…みたいなもんや」

「あ、そうなん!?知らんかった。堪忍や」



それから二人は少し話して、島本君は名前ちゃん、バイバイって言って去ってった。


何を話してたかなんてわからない。

それは内容がわからなかったんじゃなくて。ただわたしが聞いてなかっただけなんだと思う。


白石さんにとって、わたしは妹みたいなもの。わかってたのに。

謙也くんは幼なじみだけど、兄妹みたいなものだから、白石さんもそういう目で見てるんだろうって。


わかってたのに本人から言われてショックだった。



「名字さん」



隣から聞こえる声はもういつもの優しい白石さんの声に戻ってた。

でもわたしは白石さんの顔が見れない。



「…はい?」

「合コン行ったん?」

「……はい」



わたしの声は自分が思ってるよりも多分小さかったと思う。


白石さんには知られたくなかったよ。不本意だったとは言え合コンに行っただなんて。


好きな人にそんなこと知られたくない。



「そっか…」



白石さんは綺麗な顔を少し歪めて笑う。

どうしてそんなふうに笑うのかなんてわたしにはわからないけれど。そんな苦しい顔はして欲しくない。


わたしの大好きな優しい笑顔をして欲しいのに。

でも、妹みたいな存在のわたしにはどうしたらいいかなんてわからないよ。



「あ、の…ありがとうございました」

「ん?あーええねんて。あいつ女好きやからもう会わん方がええで」



もう会うつもりはないし、尚更会いたくないと思った。妹みたいにしか見られてなくてもわたしは白石さんのことが好きだから。

やっぱり合コンなんて行きたくない。



「名字さんは、」

「はい」

「その、好きな奴とか居らへんの…?」

「え…」



まさか好きな人本人に聞かれるなんて思わなかった。

でも自惚れちゃダメだよね。彼女はいないって言ってたけど、ただ妹みたいなわたしを心配してくれてるだけかもしれないもん。



「あ、いやー…やっぱりええわ。立ち入ったこと聞いて堪忍な」



くしゃっとわたしの頭を撫でるその温もりに、好きだと言ってしまいたくなった。


わたしは妹じゃない。白石さんを好きな一人の女の子だよ。って言いたくなった。




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