白石さんと電車に乗って、ついた先は映画館だった。


ここに来るまでも白石さんは笑顔でわたしの話を聞いてくれて、面白い話もしてくれた。わたしは段々緊張が解けてきてやっと普通に話せるようになってきた。



「何見るんですか?」

「ん?名字さんが見たいって言うてたやつ」

「え?」

「えーっと…何やっけ」



白石さんはタイトルが思い出せないみたいで苦笑する。



「わたしが見たいって言ってたの覚えてたんですか」



確かに見たい映画があるって話は少し前にメールでした。でもそれは友達が面白かったって言ってたのを聞いて、白石さんとのメールでちょこっと話題に上がっただけ。

そんな些細なこと。



「大したことじゃないのに」

「名字さんやって俺が怪我するってぼやいたん覚えてて絆創膏くれたやん。やからおあいこや」



映画の名前は忘れてしもたけど、ってまた苦笑。白石さんは映画をわたしに選ばせて、チケットを買って劇場に入る。



「あの、お金!!」

「ええよ。これくらい払わせてや」

「でも…」

「お礼やから、な?」



白石さんの優しい笑顔は嫌とは言わせない力があるんじゃないか。プレゼントにお礼なんていらないのに。わたしが勝手にあげただけだし。



「E16と17やって」

「あ、はい」



言われた通りの席に着く。そこである事実に今更ながら気づいてしまう。



う、わ…白石さんが近い。近すぎる。映画館の席ってこんなに近かったっけ?前にはるちゃんや謙也くんと映画見た時はそんなに感じなかったのに。



「楽しみやなー」



くつくつと笑う白石さんはまるで少年のよう。本当に白石さんはいろんな笑い方をするなぁ。もしかして笑い上戸なのかな。



「すみません、わたしが見たいのに付き合ってもらって」

「ん?俺も見たいからええんや」



わたしが気を使わないように言ってくれてるんだってわかってる。だって見たいならタイトル忘れたりしないもん。



「名字さんが見たいなら俺も見たいってこと。気にせんといて」



わたしの考えを読み取ったのか笑顔でそう言ってくれる。本当に優しい人。



「でも…」



わたしが言葉を発しようとすると白石さんは唇に人差し指を当てた。それからにっこり笑う。それだけで多分わたしの顔は真っ赤だ。



「でもは、なし。もう映画始まるで」



ブザーが鳴って薄暗くなる。それから上映が始まった。隣の白石さんをちらりと見ると映画をじっと見ていた。その表情にドキッとする。



暗い中でも映画の光で白石さんの顔は見える。決してつまんなさそうではない。良かった。



「ん?」



わたしの視線に気づいて首を傾げる。そんな小さな仕草までもがかっこいい。わたし、重症かもしれない。



「い、いえ」



周りの迷惑にならないように小さな声で言って首を振る。せっかくだもん、映画を楽しまなくちゃ。


そう思ってるのにわたしの心臓のドキドキは収まりそうになかった。



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