朝起きていつも通り無駄なく学校へ行く支度をする。

制服に腕を通し、髪をセットして、リビングで朝食。いつも通り。



「クーちゃん、なんや機嫌ようない?」

「え?そんなことないで」



朝食を頬張る友香里がじっと俺を見る。


友香里の言うとおり今日の俺は少しだけ機嫌がええ。理由は自分でわかっとる。

昨日予想外に名字さんに会えたこと。そしてまた予想外に誕生日プレゼントをもらったこと。


彼女の選んだもんには正直吃驚した。多分そんなに知り合いでもないし軽いものにしたんやろう。せやからタオルはわかる。

でもまさか絆創膏をくれるとは思わんかった。俺との単なる雑談を覚えててくれたんやって思うと嬉しかった。



「わかった!!昨日仰山もらった誕プレに好きな女の子からのもあったんや!!」

「ぶふっ」

「え、図星?」



好きという単語を聞いて思わず吹き出す。友香里がにやついて俺の腕をつつく。


俺って名字さんのこと好きなん?でも、そんなん勘違いかもしれへんし。ただちょっと気遣いのあるプレゼント貰て嬉しかっただけかもしれへん。



「何言うてんねん!!そんなんちゃうわ」



俺は食うてた朝食を押し込んでさっさと立ち上がる。動揺しとるんが悟られんように急いで用意をして家を出た。



登校中ずっと上の空やった。もしほんまに名字さんのこと好きやったら。そんなことを考えては消しての繰り返し。


そういえば名字さんは謙也のこと好きなんかもしれへんのやった。一緒に出かけとったんを隠すくらいやし。

いや、でももしかしたら俺のプレゼント買うためやったから俺には言えんかったとか。流石にそれはポジティブすぎるか。



「おはようさん」

「あぁ、おはよう」



部室の鍵を開けて着替えとると次々と部員がやってくる。各々の間で挨拶が交わされ、俺も何人かに声をかけられる。



「蔵リーン。おはようさん」

「おわっ!!」

「小春〜」



思い切り抱きついてくる小春につんのめる俺。ユウジが情けない声を上げながら追ってくる。二人がこうやって絡んでくるんも、良くあること。それを呆れた顔で眺める財前がいたり、笑っとる謙也がいたり、早よ行こうやーなんて我が儘を言い出す金ちゃんがいたり。

いつもと変わらん風景な筈やのに、なんや頬の筋肉が緩んでしまうんは何でやろな。



「あらん?何やええことでもあったん?」

「え?いや、ないで。ただもう18やししっかりせななぁって思っとっただけや」

「それ以上しっかりするつもりなんスか」

「あ、あぁ、まぁ…」



財前のツッコミに曖昧に返事をする。自分がしっかりしてへんなんて思わん。むしろ同年代の中ではしっかりしとる方やろう。



「ほら、さっさと朝練行くで!!」



これ以上追求されないように、俺はパンパンと手を叩いて部員を促した。



「なぁ白石」

「ん?」



コートに向かう間に謙也に話しかけられた。その謙也はニヤニヤしとって明らかに何か良からんことを考えとるんが明々白々。



「昨日名前とどないやった?」

「え、あ…名字さん?」



予想外に名字さんの名前が出てきて慌てる俺。いや、でもよう考えたら謙也は幼なじみやし知っとっても全然不思議やないんやった。



「名前、駅で待ってたやろ?」



あれって謙也を待ってたんとちゃうん?謙也の口振りからすると俺を待ってたことになる。

それって最初から俺にプレゼント渡す気やったってことやろ。え、何やめっちゃ嬉しい。



「あぁ、名字さんの家まで送ってプレゼントもろたで」



事実のみを謙也に伝える。余計なことを言えばどうせからかわれるから。

ほんまはみんなに話したいくらい、友香里や小春に気づかれてまうくらい、浮かれとる。



「へぇ〜」

「…謙也、今日特別メニューな」

「は?おい!?」



俺はにやける顔を見られんためにさっさと謙也を通り過ぎた。


後ろから聞こえる謙也の声なんて全然気にならへん。




戻る