白石さんの誕生日当日。
わたしは地元の駅で謙也くんと白石さんを待つ。謙也くんのメールでは次の電車で来る筈。
き、緊張する…。何て言って渡したらいいんだろう。嫌な顔されないかな、迷惑だって言われたらどうしよう。
改札口前で待ってたら電車が来た。帰宅途中のサラリーマンとか学生さんがぞろぞろと出て行く。その中に謙也くんと白石さんは、いた。
謙也くんは白石さんに何かを言って、家とは反対の出口に向かってしまう。
え、わたしどうやって話しかけたらいいの。白石さんにいきなり話しかけるなんて無理だよ。謙也くんどこいっちゃったの。
「名字さん…?」
「え、あ…ふぁいっ!!」
ふぁいって何、ふぁいって!!恥ずかしい。でもでも、いきなり目の前に白石さんがいたら吃驚してもしょうがないよね。って、白石さん?あ、白石さんだ!!
「ふぁいって…くくっ…」
白石さんはわたしの前で無邪気な子供のように笑っている。柔らかい笑顔じゃなくて、そんな素の笑顔まで素敵過ぎてわたしの目は文字通り釘付けだ。
「あの…」
「あー、笑た。堪忍な、名字さんがおもろすぎて」
まだ笑顔のまま白石さんはわたしの頭を撫でた。無意識なんだろうけど、わたしはそんな一つ一つの動作にドキドキしてしまっている。
「謙也でも待ってたん?なんやいきなりCD見に行くとか言うて行ってしもうたんやけど」
「そ、ですか」
まさか、白石さんを待ってました、とは言えない。なんかストーカーみたいだもん。でもプレゼント、渡さなきゃ。
「謙也のこと待つ?」
「えと、か、帰ろう、かな。謙也くんは帰ってからでも会えるし」
ほな送るわ、と言って白石さんは歩き始めた。どのタイミングでプレゼント渡したらいいの。だってこれじゃ普通に送ってもらってさよならする展開だよね。
「謙也ん家の隣でええん?」
「あ、はい。って途中まででいいですよ」
「女の子一人で帰せへんよ」
白石さんはにっこり笑って前を向く。わたしの歩くペースに合わせてくれてて、ゆっくり歩く。そんなふうに自然と紳士的なことをするからわたしの心臓はドキドキを増す。
どうしよう、二人きりなんて緊張しちゃう。ただでさえプレゼントのことで緊張してるのに。
「どないしたん?元気ないん?」
「え!?げ、元気いっぱいですよ?」
「いっぱいって…はは、ほんまおもろいわ」
白石さんはやっぱりよく笑う、と思う。わたしと話なんてしたってそんなに面白くないだろうに。気遣ってくれてるのかも。
「謙也、どないしたんやろな。帰るまでは何も言うてへんかったのに」
きっと気を利かせてくれたんだ。白石さんと二人になれるように。せっかく謙也くんが作ってくれたチャンス無駄にはできないよね。よし、頑張れわたし。
「しし白石さん」
「ん?」
立ち止まってわたしを見る。目が合ってよりいっそう心臓の音が大きくなる。
「今日、誕生日、なんですよね」
言葉尻が小さくなってしまったけど、きっと聞こえてる。白石さんは驚いたのか目を丸くして、そうや、と頷いた。
「おめでとうございます」
「おおきに。よう俺の誕生日知っとったな」
「謙也くんに聞いて…」
きっとわたし顔が真っ赤だ。ふわりと爽やかに笑う白石さんを直視できない。それでもプレゼントを取り出して必死に話す。
「大したものじゃないんですけど、プレゼント…です」
「プレゼント…!?」
ちらっと白石さんを見上げるとさっきにも増して吃驚した顔をする。そして差し出したプレゼントをわたしの手から受け取ってくれた。
「もらってええん?」
「是非」
精一杯の笑顔で頷いた。受け取ってもらえて良かった。
「っ!!名字さん」
白石さんは目を逸らして口元に手を当てる。街灯で照らされた顔は少し赤くなっているような気がした。
「今日もらった何よりも嬉しいわ」
「それは大袈裟ですよ」
白石さんは、ありがとうな、と言ってわたしの頭を撫でた。ドキドキという心臓の音が白石さんに聞こえてしまわないか心配になった。
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