ここ数日、毎日白石さんとメールをしてる。内容は大した話もしてない。でもただ楽しくて。メールが来るのが楽しみで仕方がない。
「機嫌ええな」
「そうかな」
はるちゃんがじっとわたしを見る。きっと見てればわかるくらい機嫌が良いんだと思う。
でも、それは本当のこと。白石さんのメールを見るだけでにやけてしまうくらいなんだもん。
「何かあったんや〜」
「や、やだなぁ、何もないよ!!あ、メール来てる」
白石さんかも、って思っていそいそとメールボックスを開けると、期待外れ。白石さんではなくて謙也くんだった。
「お目当ての人からやなかったみたいやな」
「え!?そ、そんなのいないって。からかわないでよ」
誤魔化すように大袈裟な身振りをすると、はるちゃんは余計にニヤリと笑った。わたしはその視線を避けるために、携帯に目を戻してメールを開く。
謙也くんからのメールには、今日の放課後買い物に付き合ってほしいという内容が書かれてた。いいよ、って送るとすぐに返信が来た。
『おおきに。ほんなら校門まで迎えに行くから待っとってや』
謙也くんと買い物に行くのは珍しいことじゃない。最近こそあまりなかったけど、買い物したり映画見たりはよくあることだ。
前に一度友達にそれを目撃されて、彼氏かと間違われたけど、謙也くんはただの幼なじみ。というかお兄ちゃん的存在。
「楽しみだなぁ」
「何が?」
「謙也くんと買い物」
久しぶりだし。でも平日に、しかも放課後なんて珍しいな。何か急に買いたいものがあるのかな。
放課後、走って謙也くんとの待ち合わせ場所の校門に向かう。
考えてみれば女子校の校門でイケメンの男の子がいれば注目の的になってしまう。それに謙也くんは待つのが嫌いだ。だから急がなきゃ。
「せやから、待ってるやつおんねんて。堪忍な」
校門に近づくと人集り。それに女の子たちの声と謙也くんの参ったような声が聞こえる。やっぱりナンパされてる。
花女の女の子はイケメンに目がない。やっぱり女子校って普段男の子との接点がないからなのかな。
「謙也くん!!」
「名前。やっと来た…。ほなな」
謙也くんはわたしの手を取って走り出す。走るのはいいけど、もう少しスピード落として。運動部の男子高校生と帰宅部の女子高生の体力の差を考えて欲しい。
「…はぁっ、はぁ…け…、やくんっ」
段々足がついて行かなくなってきて繋がれている手を引っ張る。もう限界だよ。
「あ、堪忍。速かった?」
「速すぎるよ、バカ」
まだわたしの息は上気している。謙也くんはもう一度謝って、わたしが落ち着くまで待ってくれた。
「花女の女の子たちにはほんまビビるわ」
「謙也くん、かっこいいからね。女子校の女の子たちはイケメン好きなんです」
俺ってイケメンなん?なんてキョトンとして言うから笑ってしまった。
どう見たってイケメンだよ。わたしの自慢の幼なじみだよ。自慢なんてしないけど。だって絶対会わせろって言われるし。
「あ」
「どうしたの?」
「せやから名前は白石が好きなんか」
「な、なな何言ってるの!!」
わたしは慌てて謙也くんから目を逸らして、否定する。
白石さんは確かにすっごくかっこいいと思う。でもわたし、白石さんのこと別に好きじゃないし。面食いじゃないもん。
「だって白石、イケメンやん」
「そうだけど。だからってわたしが白石さんのこと好きとは限らないよ」
自分でそう言いながら、本当はもう白石さんに気持ちが傾き始めていたことに実は気づいていた。
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