アホみたいに騒ぐ部活後のクリスマスパーティーはもはや毎年恒例。高校入っては初めてやけど中学ん時とメンバーが変わらんから大した新鮮味もない。
じゃんけんで決まった買い出しメンバーは俺と小春先輩。
運が悪いとしか言いようがない。せめて師範とか部長あたりがよかった。
だいたい何で俺やねん。小春先輩言うたらユウジ先輩やろが。浮気かって騒ぐくらいなら代わりに行けや。
「行ってくるわねん」
「財前、小春に手ぇ出すなよ!!」
「あーはいはい」
絡みつく小春先輩を引き剥がしながら適当に返事をして、ジャージのまま部室を出る。
誰が手なんか出すか。男やろこの人。だいたい女でも手なんて出さへんし。
「光くんと二人でデートなんて嬉しいわー」
「小春先輩ええ加減にしてください。ほんまにキモいんで」
スーパーに入って菓子をかごにどんどん放り込んでいく。金額の計算は小春先輩がやるから俺は残金も気にせずに手当たり次第に菓子を手にとる。
「あ…」
一人の女の姿を見て手を止めた。飴のコーナーの前でしゃがんで何かを見とる。それが自分が会いたいと思っとる人物なのはすぐにわかった。
「名字」
近づいて声をかけるとぱっと見上げた見慣れた顔。
茶色い髪を揺らして目を見開く名字は私服のせいかいつもとちゃうような気がする。
「あれ、財前。何やってんの、こんなところで」
立ち上がった名字は俺の後ろに追いついてきた小春先輩に会釈をした。
パーカーにジーンズ。髪はいつもみたいにおろしとるんやなくて後ろで一つに纏めとる。初めて見た制服以外の姿は決して女らしゅうないけど、雰囲気はだいぶ違う。
俺の心臓を鳴らすのにはそれだけで十分やった。
「ちょお買い出し」
「光くん、この子誰!?めっちゃかわええわー。こんな女の子手に入れとるなんて隅におけ…」
「先輩、うるさい」
テンションが上がって騒ぐ小春先輩を睨んで不機嫌な顔を作る。
ほんまは名字には冬休み中は会えへんと思ってたから嬉しい。けど今はそんな顔をしたらあかん。人一倍そういうんに鋭い小春先輩にバレる。
「うふふ〜、アタシ先行っとるわね」
小春先輩はニヤニヤしてウインクをして通り過ぎて行く。あかん。あの顔は絶対バレた。最悪や…。
「いいの?先輩行っちゃうけど」
「ほっといてええ」
「あっそ」
名字がまたしゃがむから俺も隣にしゃがむ。
若い男女がこんなところで二人でしゃがんどんのは多分滑稽な光景やろう。でもそんなんは気にならんかった。
「何しとん」
「飴、どっちにしようかと思って」
いつもの飴と隣にある飴を交互に見る。飴一つでこんなに真剣に悩んどる名字が少し笑えた。
頭が良くて少し大人びていて。人と関わろうとしないで壁をつくっとる。なのに飴なんかを選ぶのに真剣な名字。
大したこでもないのにただ可愛いと思えた。
俺、もう末期やな。キモいわ。
「今笑ったでしょ」
「は?笑てへん」
「笑ってた。馬鹿にすんなよ」
名字は俺を一瞥してからまた飴に目を戻した。俺は手を伸ばしていつもの飴を名字のかごに入れた。怪訝な顔で俺を見て文句を言いたげにする。
「いつもこれやん」
「…何で知ってんの」
「前くれたから」
図書室で寝てる俺に置いてっためっちゃ甘い飴。名字はいつもこれを舐めとる。
「……甘いもの食べるとさ」
小さな声でポツリと呟いた。膝を抱えるようにしてしゃがむ名字の視線はいつの間にか床に移っていて瞳は微かに揺れていた。
「ちょっとだけ寂しさが紛れる気がするんだよね」
ほんまに寂しそうな顔をするから。俺はどうしても名字をほっとけなくて。
気づいた時には名字を立ち上がらせて手首を掴んでいた。手を握れんかったんはやっぱりそれはできなかったから。
「行くで」
「は!?どこに」
「学校や」
面倒やと思ってたクリスマスパーティーが一気に楽しみになる瞬間やった。ただ好きな女が居るってだけやのに。
俺は案外単純らしい。
−45−
戻る