家に帰って自室で制服を脱ぎ捨てて、適当な服を着て暖房のスイッチを入れた。

誰もいない家は帰ってきても暖房がついてるわけでもなく寒い。


一人暮らしにしては無駄に部屋が多くて広い家は、殆ど機能していない。自室とリビングとキッチン、それからお風呂とトイレしか使ってない。



ベッドに横になって携帯をいじる。アドレス帳のさ行で指を止めた。


メールしろって言ってたけど何てしたらいいんだろう。こんにちは、とか?いやいや、それはない。おかしいでしょ。

じゃあ何て送ればいいんだ。自分からメールなんてしないから検討もつかない。



随分迷った挙げ句、やっとメールを送った。



『何でメアド?』



思い当たった疑問をそのまま文字にする。

別に嫌なわけじゃない。寧ろ好きな人である財前のメアドを知れるのは嬉しいことだ。

でも今更何で、って思うのもごく自然なことだ。財前との間でメールの必要性を感じたことはない。



「お、意外と返信早い」



送って数分でメールが返ってきた。メールを開くといつかも聞いた台詞。



『負けた気ぃするから』



いったい誰にですか。というか何を競ってるんだ。本当に意味わかんないな。



『意味わかんない』



思ったことをそのままメールした。詳しいことを話してくれると思いきや、次のメールであたしは固まる。



『今電話してええ?』



さっきのあたしのメールは無視か。財前は何がしたいんだ。とりあえずいいよって送るとすぐに着信があった。



「で?誰に負けたの」

『…』

「電話切るけど?」

『…謙也さん』

「謙也さん?…あぁ、なるほど」



財前の方が先に知り合ったのに、自分はメアドを知らないで謙也さんはメアドを知ってるのが嫌だったわけか。

確か財前と呼ぶように言われた時もそんなようなこと言ってたか。あの時の相手は渡邊センセだった。


財前は案外やきもち妬きなのかもしれない。



『それに』

「まだあるの」



財前はちょっと真面目な声で言葉を続けた。



『名字は、一人なんやろ』

「え?」

『あの時、行かないでって言うたんは一人になりたくなかったから』



財前の言葉にギクリとした。


あの時、がどの時を指してるのかあたしにはわからなかったし、財前に行かないでなんて言った記憶もない。

でも一人になりたくないのは事実。一人でいることには慣れても、孤独に慣れることはなかったから。



『俺がいたる』

「…何で」

『………同志、やから』



財前が電話の向こうでフッと笑った気がした。それからいつでも連絡していいからと言って通話が切れた。



冬休み中あたしが一人なことを気にしてくれたんだろうか。

それって嬉しい。



嬉しいのはやっぱり好きだからなのか。



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