流石にあたしでも期末試験をサボるわけにはいかない。
とは言ってもあたしの場合問題が簡単すぎて半分以下の時間で終わるから暇を潰してるにすぎないけど。
あ、一応嫌みではない。事実だ。
「あれ、財前?」
「何でこんなとこに居るんや」
財前は椅子に座ったまま顔をしかめた。
そんな顔をするのもわかる。ここは図書室。あたしとは縁がなさそうに見えるだろうし。
「ちょっと本を探しに。財前は?」
「図書委員。誰も来ないやろうけど仕事やし」
一応サボりはしないんだ。財前ならサボってもおかしくないのに。
今まで一度も図書室で会ったことないのは不思議だ。あたし結構放課後とか来てると思うんだけど。
読書は意外と好き。ゲームという存在に出会う前の子供だった頃は本ばっかり読んでた。
その名残からか今でも読書はそれなりに好きな方。でも最近は暇な時間は専らゲームか睡眠だけど。
「そーなんだー。大変だねー」
「思ってへんやろ。棒読みすぎ」
財前の手元に目を移すと古典の教科書が開かれて、シャーペンが転がっていた。
明日のテストの勉強か。財前が勉強してるって意外だな。
「流石に試験前くらいは勉強するわ」
あたしの視線で考えてることがわかったらしく、財前はバツが悪そうに目を背けた。多分あまりこういうとこ見られたくないんだ。
「そっか。頑張って」
あたしは財前のいる貸し出しカウンターから離れて本棚に向かう。沢山ある本のタイトルを目で追って、探してるジャンルを探す。
「あった」
あったのはいいけど、あたしには届きそうもない。
探してたのは料理の本。意外に学校にも置いてあるんだよね。同じメニューだけじゃ飽きるしよくこうやって食べたいものを探してる。
「…っ」
精一杯背伸びをするけど指先が触れるだけ。
あとちょっとなんだけど。なんか悔しい。あたしそんなに背小さくないはずなんだけど。
「どれや」
「うわっ!!」
背後でいきなり声がして吃驚する。後ろを振り返ると財前がいた。あたしが取ろうとしていた本のあたりを眺めてる。
「驚きすぎやろ」
「いきなり声かけるからじゃん」
まさか来てくれるとは思ってなかった。勉強してるわけだし、あたしのことなんて気にもとめてないだろうと思ってたから。だから余計に驚いた。
「あんまり必死こいとるから気になった」
すっ、と後ろから手が伸びてきてあたしの届かないところにある目当ての本に触れる。これか、と聞かれて頷くと財前はその本を取ってくれた。
「意外って顔しないでよ」
「自分もさっきしてたやろ」
表紙にある料理という文字を見て若干驚く財前。
どうせ似合わないよ。別に料理したくてしてるわけじゃないからいいけどさ。そんな怪訝な顔しなくたっていいじゃん。
「そういえば自分一人暮らしやったっけ」
「一番無駄のない暇つぶしなんだよ」
美味しいものを作れれば美味しいものが食べれるわけで。食費に入るから無駄にお金を使うわけでもない。
それに料理は割と嫌いじゃない。
「無駄ないって部長か」
「部長?」
「何でもない」
財前はさっさともといた貸し出しカウンターの中に戻ってシャーペンを握る。
普段は図書室で見て行くけど、勉強してるなら邪魔になるし借りて帰るか。
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