空気がピリピリしてるのは何故。何でこんなに空気が凍ってるんだ。誰か何とかしてよ。
「…」
さっきからずっとこの調子。誰も話そうとしない。いつも掃除中話してる謙也さんも黙り。ほんと何なんだ、この人たちは。
今日で風紀週間も最後だから違反者全員で旧校舎を掃除することになっていた。昼間謙也さんが言おうとしたのはそのことだったらしい。
その間勿論ペアで行動する。それは問題ない。でも何であたしらのとこに財前とそのペアがいるんだ。何であたしらは四人でやってるんだ。
しかもテニス部の二人は何かもめてるし。めんどくさ。
「あーあたしごみ捨ててきます」
ごみ袋の口を結んで閉じる。持ち上げると意外と重くてよろけそうになるけど、何とか持ちこたえる。危ない危ない。
「重いやろ。俺が行くで」
謙也さんがあたしに近寄ってきてごみ袋を受け取ろうとする。
「いや、いいです。あたしが行きます」
きっと良心なんだろうけど、正直こんな居づらい空気もうまっぴらだ。抜け出すためにごみ捨てにいくのに。
「行きたい言うてんやから謙也さんに行かせとけや」
「ピアス、謙也さんは行きたいとは言ってないけど」
あれ、またムッとした。もういいや。わけわかんないし行ってしまえ。
あたしはごみ袋を半ば引きずりながら旧校舎を出る。
冷たい風が吹き付けて寒過ぎる。冬なんて嫌いだ。いくらマフラーしたってカイロ持ったって寒い。ごみ袋は地味に重いし。最悪だ。やっぱり謙也さんに任せればよかった。
「何やっとんねん」
重い重いと思ってたごみ袋がひょいとあたしの手から消える。正確には奪い取られる。犯人は財前。
「重い」
「せやから謙也さんに行かせればええ言うたやろ」
「だってあそこは空気が重いからいたくない」
原因分子の片割れの財前がここにいるってことは今はそうでもないかもしれないけど。そもそも何があったんだ。昼休みから財前の様子がおかしい。
「ねぇ、どうしたの?財前、何か変」
「…」
黙ってあたしの隣を歩く財前は無表情。何考えてんのか全然わからない。いつものあたしなら別にそれならそれでいい、はず。でも何でだろう。あたしは何でか財前が何を考えてるのか知りたいんだ。
「言いたくないなら別にいーけどさ」
「………名前」
「は?名前が何?」
「俺、言ったやろ。ピアスって呼ぶんやめぇって」
そういえばそんなことも言ってたかもしれない。でも普段人前で話さないのに、財前って呼んだらおかしいじゃん。未だに話したことないクラスメートの名前は覚えてないくらいなんだから。
「だから財前って呼んでるじゃん」
「さっきはピアスって呼んだ」
「だってさっきは知らない人いたし」
財前のペアがいた。違う学年っぽかったけど一応。念には念を入れるべきだ。
「そんなん関係ないやろ」
「ある。財前とあたしは接点ないことになってんだから」
「何でや」
何でって自分のせいでしょうが。女子と話す時あんなに嫌悪に満ちた顔で話してるんだから、あたしと普通に話してたら何か誤解される。
あたしは何言われたって構わない。どうせ友達と呼べそうな人も数人しかいないし、興味もないから。でも財前は嫌だろう。
「財前、女嫌いでしょ。あたしと話してたら変な噂たちそうじゃん」
財前はちっ、と舌打ちしてまた黙ってしまった。何なんだ。
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