俺は汚いんや。汚れきっとる。言い寄る女を初めこそ拒んでいたけど、次第に何をされても抵抗しなくなった。好きにすればええんや。もうとっくに諦めとる。

中学ん頃から何度も繰り返された行為に、俺はもう一生変われへんと思った。むしろ変わったらあかんとさえ思ってた。


今更女を好きになって恋愛したりする資格、俺にはないんや。



なのに名字はそんな考えを一気に変えた。



変わってもええんか。いや、もう変わり始めとる。

現に、自分からは女に触れられん筈やったのに、さっき俺は名字の腕を掴んだ。それに最近自分はよう笑う、と思う。



自分のその行為が何を意味するか、わかりたくなかった。だから考えへんようにしとったのに。

名字が謙也さんと居るのを見る度に、メールをしとるのを見る度に、イラついて、気づいてしまった。






俺は、名字が、好きなんや。






「好きって……あかんやろ…」



俺は自分の額に手を当てた。


いや、気づいてた。気づいてて知らんふりをしとっただけや。



最初は名字はただ自分とちょっとだけ似とる女やった。諦めを含んだ目をしてて、周りに関心がなくて。

あいつの中にはきっと他人にはわからん何かがある。俺と同じ。


でも、最近ほんの少し笑みを見せる。俺にだけやなく、謙也さんにも。メールだってしとるらしい。


名字は変わったと思う。俺の知らんところで、少しずつやけど。



「俺には…そんな資格、ないで」



心の整理がつかないまま目をつぶって必死に落ち着こうとした。

















もう一時間だけ授業をサボって、今日最後の授業だけは出た。流石に午後全部サボるわけにはいかんやろ。しかも次オサムの授業やし。サボれば部活で何やらされるかわからん。



「財前、結局ピアス付けてもうたんやな」



予想通りとでも言うように笑うオサムにムカついて俺は顔を逸らしてシカトした。オサムはしばらく騒いで、漸く授業を始めた。


俺より前に座る名字を見ると、机の下でゲームをしてる。どんだけ授業受ける気ないねん。



「名字ちゃん、授業聞いてくれへんとオサムちゃん悲しいわ〜」

「聞いてる聞いてる」



適当に流しながら目は下を見たまま。テスト前なのに余裕やな。


オサムが名字に問題を解かせれば、何の戸惑いもなく解いてしまう。あいつ、ほんまは勉強できるんかも。いつも授業聞いてへんのに小テストとか満点やし。



「よぉできたな。1コケシやるわ」

「前から思ってたけどそれって何なの」



名字はそこで初めて視線を前に向けた。相変わらず興味はなさそうやけど、コケシには少し疑問を持ったらしい。



「謙也さんに聞いても笑うだけだし」

「オサムちゃんポイントやで。忍足はそう答えんかったんか」



オサムちゃんポイントやで、なんて三十前後のおっさんがウインクするキモさとか、ほんまならめっちゃひく筈やのに。今は謙也さんのことを普通に謙也さんと呼ぶ名字にイラついた。


俺がそう呼ぶからそう呼んどるだけやってわかってるけど。実際、部長のことも部長って呼ぶし。でも名前で呼んどることに変わりはない。


初めて謙也さんと呼んどることを後悔した。



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