体育倉庫の掃除を終えて一旦教室に戻る。お互いに荷物を取ってきて下駄箱で待ち合わせだ。


別に一人で帰れるって言ってるのに謙也さんはやたらに心配する。日の短い冬だからあたしらが帰る頃には真っ暗で、そんな中を女一人で帰せないらしい。

意外と紳士的な考えの持ち主だ。普段は結構残念なイケメンなのにこういうことするからモテるんだろう。



階段を上がって自分の教室に向かってる途中で呆れたように怒る女の教師の声が聞こえた。


最初は気にならなくて早く鞄を取って帰ろうと思ったけど、ある名前を聞いて気が変わった。



「財前君、今回はピアス外してたのに何でつけたん?ほんまは校則違反やけど、せめてあと四日我慢すればよかったのに」

「別に。理由なんかないっスわ」



廊下の陰から様子を窺うと財前は反省なんてしてないみたいでポケットに手を突っ込んで先生を見下ろしてた。

その耳に視線を移せば、五つのピアスが元通りについている。



「まったく…。先生やって注意なんかしたないんやからね。はい、カード」



教師は財前に違反者カードを渡してあたしがいるのとは反対方向にスタスタ歩いて行く。財前はフンッと鼻で笑ってカードをポケットに入れた。



「名字、いつまでそうしてんねん」

「あ、バレてたんだ」



あたしは悪びれもせずに財前の前まで進む。近くで見るとピアスは元いた場所にしっかり収まっている。見慣れているせいもあるだろうけど、やっぱり財前はピアスがあった方がいいと思う。



「ピアスは校則違反ですよー」

「自分もな」

「あたしは二個しかしてないし。五個もつけてる奴に言われたくないね」



個数の問題ちゃうやろ、と言って財前は笑った。

今日は機嫌が良いらしい。でも機嫌が良いからって不意に笑顔を見せるのはやめてほしい。イケメンなんだから、心臓に悪い。



「何でつけたの?」

「これないと落ち着かんねん。それに…」



自分の耳にあるピアスに触れながら答えて、何かを続けようとする。けどそこではっと何かに気づいて口を噤んだ。



「それに?」

「…何も」



目を逸らしてまた手をポケットに突っ込んだ。言いたくないことらしいからあたしも追求はしない。



「うわ…」



自分のポケットが震えるのを感じた。ABCにメアドを教えてからというもの、メールが来るのは珍しくはなくなった。

あたしは面倒くさいから、うん。とか、そっか。とかって返してるのに彼女たちはめげずにメールをしてくるんだ。


でも今のバイブは彼女たちじゃないと思う。



携帯を取り出してメールを確認すると、予想的中。謙也さんだった。



「あらー、忘れてた」

「何?」

「謙也さん待たしてるんだった」



お怒りのメールと言うよりは心配のメールだけど。謙也さんは待たされるのが嫌いなのか、やっぱり少しイライラしてるらしい。ちょっと命令口調だし。



「謙也さんからのメール?」

「そー。早く来いって。じゃ」



あたしは走って謙也さんの待つ下駄箱に急ぐ。




この時財前が何を思ってたかなんて知らなかった。知ろうともしなかった。あたしには関係ないから。

友達だって所詮は他人だし。確かに財前といるのは気が楽だけど、やっぱり他人には変わりはない。



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