風紀週間三日目。
今日の掃除場所は体育倉庫だ。きっと埃っぽくて寒いだろうと思ってちゃんとマフラー持ってきたけど。
「名字」
ホームルームの後に体育倉庫に行こうと席を立ったら、担任に呼び止められた。
「うわー」
「教師にうわーって言うな」
「何ですか。あたしこれから掃除しに行かなきゃならないんで忙しいんですけど」
早く行かないと、自称何たらスターの謙也さんにどやされるじゃないか。何だっけ。多分イタい感じだった気がするけど。
「連絡入れてからでいいから来い」
謙也さんに連絡入れるにも、方法がない。メアドなんか知らないし、クラスも知らない。
だいたいこんなことがなければテニス部と関わるつもりなんかなかったわけだし。本当ならあんなイケメン集団なんて近づきたくもない。
でも財前を通して部長と謙也さんと知り合って…あ、財前に連絡入れてもらえばいいじゃん。
「日下部さん、ピアスどこにいるか知らない?」
教室にいない財前の居場所を聞いてみる。ちなみに日下部さんはAのこと。
「財前君ならさっき呼び出されてどっか行ったで」
「マジかー」
じゃあどうしよう。謙也さんに連絡入れる手段がなくなってしまった。困ったな。謙也さんだし放置でいいかな。
「どないしたん?財前君に用なんて珍しいな」
「謙也さんに連絡とってもらおうと思って」
「謙也さんって忍足先輩!?」
Bが驚いたように尋ねてくる。声がでかい。AとCは笑ってる。
オシタリなんて珍しい名前だ。そういえば謙也さんの名字知らないや。あたしの中では謙也さんは初めから謙也さんだったから。
「知らない」
考えて見れば謙也さんが名字で呼ばれてるところはあまり見ない。謙也さんが友達とかと話してる時も、やっぱりみんな名前で呼んでる。てか呼ばれてたとしても多分あたしは覚えてないだろう。
「テニス部の、金髪の人?」
「あ、そう」
いやもしかしたら他にもテニス部に金髪はいるかもしれない。でもあんな他学年でも噂になる金髪のイケメンが二人もいるわけないか。
「名前で呼ぶ仲やったん!?」
「いや、風紀週間のペア」
「なんや親しげに呼んどるやん」
Bの興奮が収まらない。ほんま忍足先輩好きやな、なんてAとCが話してる。なるほど、Bは謙也さんのファンなんだな。
「それはピアスがそう呼ぶから移った」
「財前君とそんな話さんのに?」
「あー…まぁ…」
そっか。財前とあたしは話さないことになってるんだった。そう考えたらメールしてもらうのもおかしいか。
「名字ちゃんめっちゃラッキーやん」
「何が」
「忍足先輩とペアなんて。せやったらうちも捕まっても良かったわ」
三人は誰がイケメンだの、どっちがいいだのと話し出した。知らない名前がいっぱい出てくる。
かろうじて白石ってのが部長だってのがわかるくらい。やっぱりテニス部はどの学年でも人気らしい。
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