謙也さんも名字も予定通り風紀週間で捕まった。
俺はといえばピアスを外して違反者やなくなった。
せやけどピアスをしてないんはどうも落ち着かん。やから校舎を出る時に五つとも所定の位置につける。
「財前君、ちょっとええかな」
帰るのに靴を履き替えようとしたら後ろから声をかけられた。多分先輩やろう女が笑顔で立ってた。
「何スか」
「ここやとちょっと」
ついて来てくれる?なんて疑問符つけてたって、その言葉の裏ではついて来いって言うてる。俺には拒否権がない。
黙って女について行くと空き教室に入った。
「うち、財前君のこと好きなんや」
予想通り告白で。俺が誰か女と付き合うはずない。
今では触れることすらできないのに。誰かも知らないケバい女となんてもっとありえへん。
「そうッスか」
「だから付き合うてくれへん?」
上目遣いで見上げられたってただ気持ち悪いだけ。それがかわええとでも思ってんのか。そもそも本の顔がそんなにええわけでもない。
「ありえへん。何で俺が自分なんかと付き合わなあかんねん。むしろ今すぐ俺の前から消えてほしいっスわ」
我ながら酷いフり方やと思う。でもこれで女が近づいてこなくなるなら、それでええ。
俺は部長みたいに相手を傷つけないように断ったりせえへんし、謙也さんみたいに申し訳なさそうに断るなんてできん。女なんて勝手に泣けばええんや。
「そっか、ごめんなぁ…」
泣きながら出て行った。
女は狡い。泣いたら勝ちやから。周りは泣いとる女に同情して、泣かした方は必ず悪い奴や。だから涙は嫌い。
「被害者ぶんなや」
俺は呟いてから、もう一度下駄箱に行く。
やっと帰れる。ヘッドホンをつけて音楽を流す。外に一歩出たら風が冷たくて、マフラーを巻き忘れたことに気付いた。マフラーを取り出して巻いとったら聞き慣れた声がした。
名字が、笑っとる。謙也さんの隣で。ただ笑うことさえ珍しいのに。
二人は風紀週間の罰でゴミ捨てに行くところらしかった。目に入ってくる光景は毎日絡んでくる金髪の先輩と明るい茶髪のクラスメート。ただそれだけのはずやのに二人が楽しそうに笑っとんのを見ると、何故だか心臓がじくじくと痛んだ。
しかもよく見れば名字のしとるマフラーは謙也さんのもん。それに謙也さんは当たり前のように名字の頭に触れた。名字も嫌がる素振りは見せない。何も知らんで見てればまるで、恋人みたいや。
ポケットの中の手が自然と拳を握る。二人から目を逸らして顔を歪めた。
「アホらし」
別に二人が仲良くたって俺には関係ないはず。例えばほんまに恋人になったとしても、俺がイラつく理由はない。
「財前」
謙也さんが俺に気付いた。目があってヘッドホンを外す。いつもと大して変わらん会話をして謙也さんは行ってしまう。
「名字」
謙也さんを追おうとする名字を呼び止めた。
一瞬名字が離れて行ってまう気がしたから。おかしい。もともと俺らは必要以上に近づいてはいないのに。
「どしたの?」
キョトンとして尋ねてくる名字はいつもと何ら変わりはない。何でもないと答えると走って謙也さんを追っかけた。
あぁ、やっぱり。腹ん中がぐるぐるする。
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