謙也さんという人は何というか、本当に裏表がなくて明るい。それはもうあの頭と同じくらい輝いている。
日本人のくせに何であんな金髪が似合うのかわからない。あ、イケメンだからか。
部長は大人びたイケメンだったけど、謙也さんは年相応と言うか。
「あー、めんどくさい…」
さっきからあたしは箒を持ってるだけで掃除なんて全くしてない。だって面倒だし。ゲームしたいし。
「こら、ちゃんとやれや」
謙也さんにコツンと頭を殴られて仕方なく箒を動かしてみる。謙也さんだってあんまりちゃんとやってないのに。
だいたい、渡邉センセに呼ばれた時も思ったけど、数学資料室って何のためにあるんだ。まだ理科系ならわかるけど。
数学なんて資料もへったくれもあるかっつーの。紙とペンがあればできる科目じゃんか。こんな部屋あるから物置になって汚くなるんだ。
「全然綺麗にならないや」
「名字がちゃんとやらんからやろが」
「謙也さんだって手動いてませんけど」
たった二日でこんなに話せるようになったのは、謙也さんだからだと思う。ほとんど知らない先輩だったはずなのに。財前と仲良いのもわかる気がする。
「ええねん、俺は」
「よくないよくない」
何を根拠に謙也さんが特別なんだ。寧ろ先輩なんだから率先してやれよ、うん。
「お〜い、青少年たちぃ〜」
廊下から聞こえた大きな声。ある意味ここ、数学準備室の住人だ。あの人は職員室にいなければだいたいここにいるらしい。
「出た…」
「あたし青少年じゃないし。女だし」
騒々しく入ってくるチューリップハット。スリッパをぱたぱたと鳴らして歩く、教師らしくない教師。
数学準備室は渡邉センセのせいで散らかってるって言っても過言じゃない。校内禁煙なのに煙草の吸い殻があるなんておかしいだろ。
「ちゃんと掃除やっとるか」
「オサムちゃんに言われたないわ」
「自分が散らかしてるくせによく言うよ」
「おぉ、自分ら随分辛辣やなぁ」
渡邉センセはいつものようにハッハーと笑って、椅子に座って足を組む。ポケットから煙草を出す。
いやいや、流石に生徒の前で吸うなよ。
「センセ、学校は禁煙です」
「校則違反だらけの名字ちゃんに言われたないわー」
「教師と生徒は違うでしょ」
細かいわ、って口を尖らせて煙草をしまう。口尖らすってあんたいくつだよ。もういい年のくせに。
「オサムちゃん何しに来たん?」
謙也さんの疑問は尤もなこと。あたしらが掃除してるのなんて渡邉センセは知ってるはずだ。
「あぁ、せやった。テスト作るからもう終わってええで、って言いに」
ごみ袋だけ捨てといてや、と言って奥に行ってしまった。ラッキー、もう終われる。
「てかテストって何ですかね」
「はぁ?何言ってん。風紀週間終わったらすぐ期末テストやで」
謙也さんはさも当たり前の如く言う。大丈夫か、なんて心配までしてくる。
テストなんてあまりにも関係なさすぎて気にしてなかった。嫌味とか自信があるとかじゃなくて、事実だから。
あたしには関係ない。勉強なんてやらなくてもできてしまう。
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