朝普通に登校して校門で捕まる。怪訝な顔で教師を見上げれば、校則違反を注意された。


あぁ、今日から風紀週間か。朝っぱらからよくやるよ。



「で、見事に捕まったわけや」

「校則通りとか無理だし」

「今日だけで何べん注意されるやろな」




また注意されるのか、なんてぼんやり考えたあたしは甘かった。


今日は本当に一日中注意された。いつもは注意してこない教師も流石に注意してくる。



「名字ちゃん、直す気ないやろ」



今日最後の数学の授業で渡邉センセも注意する。でも笑ってる。唯一怒らなかったのは渡邉センセだけかもしれない。



「直す気あったら最初からしないし」

「そらそうやな」



豪快に笑って他の違反者にも同じように一応は注意する。が、あたしはそこで気づいた。


財前が、注意されていない。つまりピアスを外している。



「お、財前は今回は外したんやな」



よく見ればいつも耳にギラギラ光ってるカラフルなピアスはなくて、ただ穴があいてるだけだった。普段と変わらず仏頂面ではあるけれど、いつもより全然凄みがない。

初めて会った時からつけてたそれがないことは少しだけ物足りなさと違和感を感じさせた。



「めんどいんで」



財前も前回は捕まったらしいからもうそれで懲りてるんだろう。でもなんか意外だ。財前なら教師に何て言われようと外さないと思ってたのに。



「とうとう財前も更正されたか、ハッハー」

「喧しいわ。早よ授業やれ」



今日の財前は不機嫌みたいだ。やっぱりピアスしてないの気になってんのかもしれない。



「忍足は捕まっとったで」

「謙也さんは掃除好きなんやろ」



財前は適当に返答して外に顔を向けた。もう会話をする気はないらしい。渡邉センセはそれをフッと笑って授業を始めた。



授業中のあたしと言えばだいたい寝てるか、誰かを観察してるか。それでピアスのない財前をぼんやり眺めてたら、気づいた。

財前は無意識なのかわからないけど、いつもはピアスが着いてる耳に触れて難しい顔をしてる。溜め息を吐いて耳から手を離して、また耳に触れる。

その繰り返しをもう何度かしている。いったいあの五つものピアスに何の意味があるのか、あたしにはわからない。

でも財前にとってあれはきっと精神安定剤のような役割をしてるんだろうと思う。



「違反者はこの後会議室に集まりや」



授業が終わってからホームルームがあって担任があたしたち違反者を見た。ぞろぞろと怠そうに会議室に向かう。



会議室を見渡せば人数は30人弱ってとこ。頭の色が違うのもいれば、ピアスしてるのもいる。一見何が違反なのかわかんないのもいる。



「「あ」」



あたしの声とかぶった声がいる。相手は吃驚したように目をぱちぱちとしてその後笑った。

背の高い金髪で、イケメン。財前が言うところの“謙也さん”だ。



「謙也さん、でしたっけ」

「おん。自分は前コートに来た財前のクラスの奴やろ?」

「そうですね。名字名前です」



意外にも部長はいなかった。あんな髪色だし絶対いると思ったのに。



「どないしたん?」



キョロキョロするあたしに気づいて謙也さんが聞いてくる。素直に部長がいないことを告げると謙也さんは吹き出して笑った。

何だなんだ、そんな面白いか。



「部長って白石やろ?あいつあれでも地毛やねん」



部長は成績も良いし優等生だから捕まるはずがないと教えてくれた。むしろ謙也さん的には財前がいないことの方が驚きらしい。

確かに教師に従いそうにないのに素直にピアス外してたのには驚いた。



「名字、カード見してみ」

「どーぞ」



掃除のペア決めに配られたカードをを謙也さんに渡すと今度はおっ、と言った。



「俺もFや。一週間よろしゅう」

「はぁ」



人懐っこい笑顔をしながら謙也さんはあたしの頭を撫でた。




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