最近会わないように名字が居るやろう時間は避けて視聴覚室に来ていたけど、偶然会った。
そこで風紀週間の話をふられる。
確か夏休み前のやつで捕まった時はほんまに最悪やった。それに風紀週間直後の期末試験の勉強が正直大変やった。
試験前で部活がないのに掃除させられるしえらい目に合ったのはまだ記憶に新しい。
だから今回は捕まりたくない。
名字が捕まるならなおさらや。今はできるだけ一緒に居りたくない。知ってはいけないことを知ってしまうから。
「明日から部活は試験休みや。風紀週間も始まるし赤点だけは絶対とらんように」
部長が数人をじろりと見回して言った。
高三が夏に引退してから部長を引き継いだんはやっぱり白石先輩。白石先輩、なんて慣れへんから結局俺は部長て呼んどる。
「謙也さん、黒染めするんすか?」
部室でジャージから制服に着替えとる時、隣のロッカーを使う金髪の先輩に聞いてみる。確か前回は捕まってた。
「はぁ?せぇへんわ」
最早俺のトレードマークやからな、なんて言うてる。ほなら今回も捕まる気で居るんか。
部長はあれでも地毛やし、優等生面しとるからきっと捕まらん。師範もユウジ先輩も、小春先輩もないやろう。
あとテニス部で考えられるんは千歳先輩や。でもあの人はサボらんなんて無理やからきっと捕まる。ピアスもしとるし。
「財前は?ピアス外すん?」
「考え中ッスわ」
自分の耳朶に着いとるピアスに触る。これ外すと落ち着かへんねん。
中二ん時に開けた五つの穴には毎日同じピアスがはまる。最早それは当然のことで誰も何も言うてこない。
「…外して平気なん?」
「多分」
曖昧に頷いた。
謙也さんと部長は俺がピアスを五つも開けとる理由を知っとる。一つや二つじゃ意味がない。
今では洒落たように見えるんかもしれへんけど、俺は決してお洒落のために開けたわけやなかった。
「もうあんなイカレた奴居らんでしょ」
「でも用心に越したことはないっちゅー話や」
居らんとは言ったけど、この高校には四天宝寺中から進学してきた奴は仰山居る。俺を知っとる先輩も同学年も多い。
だからテニス部の先輩らはまだ俺を心配してる。
ほんまは遠くの高校に進学しようかとも考えた。誰も俺を知らない場所で一から始めようとも思った。
でもやっぱり先輩らとまたテニスがしたいて思いの方が強かった。アホばっかやけど、やっぱり楽しかったんは事実やから。
「ま、居っても男女の力の差があるやろうけどな」
謙也さんは着替え終わってロッカーを閉めた。俺はその謙也さんに見えないように拳を握り締めた。
ほんまは最初から俺の方が力は強かったと思う。
いくら中二だったとは言え、俺は部活をやってる男で相手は同学年か一つ上の女やし。
なのに抗えなかった。ちゅうか抗わなかった。最初は恐怖で、その後は諦めから。
もし仮に今同じことが起こったら、俺は拒否するやろか。殴ってでも避けるかもしれへんし、もしかしたらまたなされるがままにされるかもしれへん。
正直もうどうでもええんや。一度汚れてしまったこの体は、もう何度されても変わることはないから。
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