「風紀週間?」
Aに一週間だけ校則違反をしない方が良いと言われた。
あ、メアドを交換してから名前は一応ちゃんと覚えてるけど、面倒だからあえてABCのままで。
「そうやで」
「何それ」
「またの名を“風紀を乱す奴に大掃除をさせよう週間”や」
三人によると、年に二回、夏休み前と冬休み前に一週間だけあるらしく、校則違反者を取り締まって普段掃除しない所を掃除させよう。っていう取り組みらしい。
校則なんていつもはあってないようなもんだけど、このためだったのか。
今のままだとあたしは完全にアウトだ。遅刻こそあまりないものの、染髪、ピアス、サボり、明らかに校則違反だ。
風紀乱してる奴というのに入るだろう。
「やから名字ちゃんも一週間だけやめといた方がええで。めっちゃこき使われるんや」
Cは夏休み前の時に遅刻して捕まって、埃っぽい資料室とか散乱しまくってる倉庫とかを掃除させられたらしい。
おまけに夏だからすごく暑くて大変だったとか。
「うーん…」
正直髪は黒に戻したくないし、ピアスも外したくない。それにあたしがサボらないで一日中授業を受けれる筈がない。
しかも一週間も。絶対無理だ。確実に捕まる。
「財前知ってた?」
今日はいつもと違って午前の世界史の授業もサボって視聴覚室にいたら財前も来た。
実は久しぶりに会う。財前は最近午後一の授業はあまりサボってなくて会うことが少なかった。
別に約束をしてるわけじゃないから会わなくても不思議じゃない。でも逆に今まではどうしてしょっちゅう会ってたんだろう。
「何をや」
目的語言えや、と言っていつもの席へ。
あたしは昨日買ったばかりの新しいゲームをセーブして消して、財前の前に座る。
「風紀週間」
「あぁ…そんな時期か」
思い出したように呟いて、興味がないのか携帯を開いてカチカチと弄る。
あたしの目は自然とその耳で重量感を醸し出している五つのカラフルなピアスに向かう。
「ピアス外すの?」
財前はピアスさえ外せば一応校則違反者ではなくなる。
髪は黒いし、朝練があるから遅刻もしない。それに財前は一日中サボらずに授業に出ることもできる。
風紀週間は回避できるはず。
「気分次第。名字は」
携帯から目を離さずに答える。
携帯をいじりながらとかゲームしながらとか、会話をする時に何かをしてることはあたしらにはよくあること。だから別に不機嫌とかそういうわけじゃないはず。
「無理だね。絶対サボるし」
「せやろな」
ふっ、と馬鹿にしたように笑って、携帯をパチンと音を立てて閉じた。
「今馬鹿にしたでしょ」
「別に」
笑ったのは一瞬だけですぐ元の無表情な顔に戻ってしまう。ほんの少しだけ残念だ。
財前が笑顔になる瞬間はかなり少ない。教室で男子と話してる時もあまり笑うことはない。あってもせいぜい鼻で笑う程度。
この前うちで笑ったみたいな純粋な笑顔って見たことある人は少ないんじゃないだろうか。
きっとあんな笑顔を普段からしていたら女子の目は釘付けだ。ただでさえ顔が良いわけだし。
きっと女嫌いな財前は嫌がるんだろうけど。
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