起きたら朝だった。しかもちゃんと自分のベッドの上。


何がどうなってんだ。確か財前が送ってくれて…送ってくれて、どうしたんだっけ。

額に触れてみるともう熱はなかった。一日で下がるなんて珍しい。



「…は?」



上半身を起こすと人がいた。

うん、いるはずない。だって一人暮らしだ。あたしは寝ぼけてるんだ。


いくら何でもあたしの部屋に財前がいるはずないだろ。



「落ち着け、あたし。目を覚ませ」



目を瞑って深呼吸。目を擦ってもう一度見る。


やっぱり、いる。あたしのベッドに背を凭れて、綺麗な寝顔でうつらうつらしてる。
その揺れで財前の耳の五つのピアスがキラキラ光る。絶対にちゃんと寝れてない寝方だ。

しかも何も掛けないで寝るなんて寒いだろうに。


よく見たらあたしも財前も制服。てことは財前は一晩中ここにいたことになる。あーあ、制服皺だらけだよ。



「財前」

「…っ名字…?」



声をかけたら一発で起きた。やっぱりちゃんと寝れてないみたいだ。きっと浅い眠りだったことだろう。



「はよ」

「おん。…もうええんか」

「うん」



財前は頭をガシガシと掻いて携帯を取り出す。時間を確認しただけなのか、すぐパチンと閉じる。そして眉間に皺を寄せる。


時計を見たら八時半。完璧に遅刻だ。



「何でいんの?」



たとえ一晩いたとしても朝になったら帰って良かったのに。財前まで学校サボらせてしまった。



「行くな言うたん自分やんか」

「嘘…」

「ほんまや」



そんなこと言った覚えない。まさか寝言でそんなことを言ったのか。その寝言を真に受けたっていうの。



「財前」

「あ?」

「…ありがとう」



寝言でも何でも、いてくれて良かったのは事実。朝起きて人がいてくれるだけで、こんなに気持ち良いなんて知らなかった。


あたしは朝が嫌いだったから。いつもいつも目を覚ませば自分が独りであることを実感してしまう。


財前がいるだけで朝がいつもとこんなにも違う。きっとこれが嬉しいって感情なんだ。



「…おん」



財前が顔を少し赤くして背けた。


赤い…まさか熱でも出したんじゃ。こんな寒いとこで何も掛けないで寝てたら風邪もひく。



「財前」



こっちを向いた財前の額に手を伸ばす。


が、財前はビクッとしてその手を避けた。



「あ、」

「俺に…触んな……っ」



目も合わせないで険しい顔をする。そしてはっとしたようにあたしを見た。



「堪忍…」

「いや、別に」



今の嫌悪した顔はあたしに向けられてるんじゃない。きっと財前には触れられたくない何かがある。だから今触れられるのを拒んだだけ。


きっとそれはもう反射的なものであって、制御不能な程財前を苦しめてる。



「何か食べるか。ってうち何もないや」

「自分普段何食って生活してんねん」

「あー、適当。材料買って作ってるよ。あとは飴」



普段は学校の帰りにその日の夜の分と次の日の弁当を作る分だけ買ってくる。朝は飲み物だけだし。だから冷蔵庫には飲み物と調味料しか入ってない。



「まぁ、今日は材料ないけど」



まだ店は開いてないから買いにもいけないし。あたしは朝食べないでも平気だけど、財前はそういうわけにもいかないだろう。
男子高校生なわけだし、部活もやってる…



「財前!!」

「なんや、今度は」

「部活!!朝練、サボりに、」

「多分部長が適当に理由つけてくれとるやろ」



メール来てないし、と携帯をいじる。ポケットに携帯を戻して歩いてく。どこ行くんだと思って追うと振り返った。



「俺鞄学校におきっぱやし、コンビニで飯買って、学校行くで」



財前は笑顔だった。



初めてニヤリじゃない笑顔を向けられて、あたしは曖昧に頷くしかできなかった。




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