目が覚めたら白い天井が目に入った。
状況が理解出来ない。確かあたしは視聴覚室で寝てた筈。
体を起こして周りを見ると自分がいるのは保健室のベッドの上だってことがわかった。
何で保健室なんかにいるんだろう。
ベッドから出たらパサっと何かが落ちた。
え?学ラン?誰の?
拾い上げて見るけど持ち主の名前はない。一年のバッジが着いてるだけ。
でもそれでわかった。これは多分財前のだ。あたしに財前以外の男の知り合いはいないし。
「お、ちょうど良かったわ」
「…!!」
いつかのテニス部のイケメンがいる。何で先生じゃなくてこの人がいるの。
「先生出張やから様子見に来たんやけど、ちょうど起きたみたいやな」
ベッドに彼が近寄って来てスッと手が伸びて来た。
驚いて目を瞑ると、優しい手つきで額に触れられた。
「まだ熱あるな。早よ帰った方がええで」
「あの、」
「ん?」
「あたし何で保健室に…?」
先生が出張でこの人が来たのはわかった。でもそれよりもっと根本的なことが聞きたい。
視聴覚室にいたあたしが何で保健室にいるのか、わからない。
「俺もよう知らんねん。財前が連れてきたみたいなんやけど」
「え、財前?」
「覚えてないなら抱きかかえてきたんか…?でも、あいつ…」
イケメンはぶつぶつと呟いてる。
夢の中で財前が呼んでるような気がしたのは、もしかしたら本当に呼んでくれてたのかもしれない。一人にしないで一緒にいてくれたのかもしれない。
「まぁ、ええわ。名字さん、一応熱計ってな」
体温計を渡される。今ナチュラルにあたしの名前呼んだけど、何で知ってんの。あたしはこのイケメンの名前知らないのに。
それに以前のような威圧感はない。むしろ何て言うか柔らかい。
「何で、名前」
あたしは体温を計りながらイケメンに聞く。
「保健室カードに財前が名前書いててん。」
イケメンは保健室カードなるものをあたしに見せてくれた。確かにあたしのクラスと名前が書かれている。
「俺は白石蔵ノ介。二年や」
「はぁ」
激しくどうでもいい。あたしにこの人の名前なんて関係ない。それにこの人が誰であったってもう関わることもないだろう。
「財前的に言うと“部長”やな」
「部長…」
確かに何度か財前の話の中には“部長”が出てきてる。あとは“謙也さん”ってのもよく出てくる。
他はあまり覚えてないけど。あたしが覚えてるくらいだからこの部長と謙也さんって人は財前と親しい間柄なんだ。
「財前から聞いたことある?」
「はい、まぁ。あと謙也さんって人の話もよくしてますよ」
「財前が女の子にそんな話しとるなんて意外やな」
「似てるんです、あたしら。だからきっと話しやすいんですよ」
体温計の電子音がなって見ると38度を超えている。どうりで頭はクラクラするし足元がおぼつかないわけだ。
結構高熱じゃないか。
「高いな。一人で帰れる?」
「平気ですから。部長は気にしないでください」
「送ってくで?」
「いや、ほんと、大丈夫なんで。もう行ってください」
できれば早く行って欲しい。初対面に近い部長に送られる筋合いはないし。
何度も断ると、部長はまだ納得してない顔だったけど渋々頷いて、気をつけやと言って出て行った。
「とりあえず荷物取りに行くか」
財前のだと思われる学ランを持って教室へ向かう。
歩く度にその振動で頭がガンガンする。階段を上がるだけでいつもでは有り得ない程息が上がる。
こんなんで家まで無事帰れるのか…。
やっぱり部長に送ってもらうべきだったかもしれない、と働かない頭でぼんやり考えた。
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