最近にしては珍しく名字が朝からいない。鞄があるから学校には来てる。せやのに以前のようにその席は空。


どーせそろそろサボりたなったんやろと思った。けど違った。



俺が午後の授業をサボりに視聴覚室に行ったら先客が居った。勿論それは名字。

でも様子がおかしい。
いつもならイヤホンしてゲームをつまんなさそうな顔でいじっとる筈なのに、今日は違う。机に突っ伏してぎゅっと手を握り締めとる。


いつものように机を叩くけど何の反応もない。名前を呼んでも同じ。



「名字」

「…」



何度目かの呼びかけで俺は諦めた。ただ爆睡しとんのやろう。起こさんといてやるか。そう思ったから。



「ぃ、ゃ………?」



しばらくして小さな声を上げたと思えば名字はむくりと起き上がった。俺はその名字の顔を見て驚く。



「ざい…ぜん……?」



顔は真っ赤で、息は荒い。しかも目は少し虚ろ。目の前の俺を認識するんも精一杯みたいに見える。



「自分、どないしたん」

「…何も」

「嘘吐くなや」



名字は眉間に皺を寄せとる。それで何もない筈がないやろ。


俺の質問も無視してまた目を瞑って寝始める。息苦しそうに顔を歪めながら。



「まさか」



眠ってもうた名字に近づく。そしてその額に手を伸ばした。けど触れる寸前で止めた。やっぱり俺は女に触れられへん。
















季節の変わり目にはたいてい体調を崩す。特に秋から冬にかけてのこの時期は体調を崩すと治りづらい。だから嫌い。



体調を崩してるんだから学校なんて休めばいい。そうすれば面倒な授業は受けなくていいし楽だ。


でも一人でいたくない。誰でもいいから一緒にいて欲しい。


あたしはだからいつも無理矢理にでも学校に行く。そして保健室に籠もる。保健室には先生がいる。



普段なら一人でも平気なのに。むしろ一人でいたいくらいなのに。風邪をひくと人は甘えたになるのかもしれない。



「名字ちゃん、おはよーさん」

「おはよ…」



だるい体を引きずって自分の席に着くと隣のAが元気いっぱいに挨拶をしてきた。

ヤバい、頭痛に響く…。



「どないしたん?顔赤いみたいやけど」

「別に」



教室にいたら悪化するだけな気がして視聴覚室に行った。保健室じゃなくてそこなのは保健室より教室から近いから。



そこで寝てたら夢を見た。誰もいなくて独りぼっちな夢。



独りぼっちは嫌。怖い。誰もあたしを認めてくれてないみたいだから。あたしの存在が否定されてるみたいだから。



『名字』



遠くの方から財前の声がした気がした。あたしを呼ぶ声が。


財前はあたしを認めてくれる。何も言わないで一緒にいてくれる。




あたしは独りぼっちじゃない。


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