毎日毎日休み時間になる度にABCが話しかけてくるようになった。昼ご飯も気を遣わせない程度には食べる。彼女たちのおかげで授業をサボることができないし、ここ数日視聴覚室に行ってない。

財前とも話してない。



友達ができるっていうのはこういう感覚なのかもしれない。一緒にいて他愛ない話をする。

あれ、だったらあたしと財前も友達ってことになるのか。



「名字ちゃん、行こう」

「あ、うん」



移動教室とか体育とか、ABCの誰かが絶対声をかけてくれる。そんな彼女たちにやっとまともな反応ができるようになってきたのはつい最近。


大阪の人だからなのかみんなマシンガンのように話すものだから、人と話すことに慣れてないあたしは戸惑うことがしばしばあった。


正直うるさい。でも別に害はないから邪険にもできない。だからABCに期待を持たない程度には付き合ってると思う。



「お、珍しいな。財前が居らんで名字が居るなんて」

「先生、名字ちゃんはほんまは真面目やねん」



Aが笑って言うけれど、そんなフォローいらないわ。てか真面目じゃないし。今だって本当はサボるつもりだったのにあんたたちが連れてきたんじゃない。財前め、あたしも視聴覚室に行きたい。

















ヘッドホンをして目を瞑る。椅子の背もたれにもたれて音楽に耳を澄ました。



俺だけが視聴覚室にいるのは今では珍しい。名字が来る前はこれが当たり前やった。名字が来てからはあいつがここに居場所を作ったせいでここに二人で居ることが多かった。



やけど最近、教室でも名字の居場所ができた。望んでか望まずかは知らんけどクラスの女とよう一緒にいる。

俺の知る限り名字は授業をサボってない。というよりあの三人のせいでサボれてない。



周りの影響を受けて変わってくんは当然のこと。俺かて入学当初と比べたらだいぶましになった。

その変化をもたらしたのはテニス部の先輩であって、オサムであって。多分名字も少なからず関わってる。


初めて視聴覚室で、一人で物足りないと感じた。




―――コンコン




机を叩く音がして目をあける。いつの間にかこれは俺たちがお互いに自分を知らせる合図みたいになってた。

名字が少し疲れた顔をして俺の前の席に座った。



「久しぶり」



音楽を止めてヘッドホンを首にかける。
ほんまは毎日教室で会っとるけど、視聴覚室以外では話さへんから久しぶり。



「何考えてた?」

「別に」

「そっか」



名字は俺に話しかける時、決まって何を考えてたんか聞く。多分一応思考の邪魔をしないようにしとんのやろう。

俺はここに居る時はだいたい大したことを考えてへんから、いつも最初は同じ会話が展開される。



「もう来ないと思ってた」

「何で?来るよ」

「友達できたやん」



あの三人が名字に声をかけたのは、名字が授業に出るようになって割と直ぐのこと。

ただでさえ関東から来た女を物珍しく見とったんやから、話しかけないはずがない。名字は第一印象が悪いけど、日常を見てれば不良やないことは一目瞭然やし。



「友達、ねぇ…」



頬杖をついて意味深な反応をする。嫌がっとるとか迷惑がっとるというよりは、納得いかないって顔。



「財前とあたしは友達…?」

「は?」

「だから、あたしらは友達かって聞いてんの」



別に意味がわからなかった訳やない。そうやなくて、突拍子もなさすぎて唖然っちゅーか。


俺らは友達かって聞きかれたら、周りはきっと違うって言う。教室で話したことはないから何かしら関係があるとは思わんやろう。でも実際こうやって話もするし同じ時間を共有してる。


例えば、同じテニス部を友達かって聞かれたら、俺は迷わず違うと答える。だってあいつらは仲間であって友達やないから。


名字は仲間でもない。部活が同じわけやないし。だからと言って友達って言うような関係でもないと思っとる。



「知らんわ、そんなん」

「あたしも知らない。あの子たちとの関係も一緒。あたしらの間には何もない。そんなの友達って言えない」



名字は下唇を噛んだ。まるで涙を堪えとるみたいに。その名字を見て一瞬俺は手を伸ばそうとした。そしてすぐ引っ込める。



何で俺は暗い目をする名字にこんなにも触れたいと思っとるんや。


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