自分の容姿が他より多少良いのは自覚してる。俺としてはやっぱり部長らの方が良いとは思うけど、それでも俺もそういう部類に属することは紛れもない事実。


それが嫌やった。自分の容姿を恨んだ。こんなんやからあんなことが起きたんやって思うと、めちゃくちゃにしたくなる。

めちゃくちゃにして欲しくなる。



かっこいいとか言われたって全く嬉しくないし。むしろ言われたくない。

女なんてどうせ男をアクセサリーみたいにしか思ってないんや。だから容姿の良い男が好きなんや。



そのはずなのに。名字は直感通り、違った。


俺を色眼鏡で見てくることはない。話をしても他の女みたいな反応はしない。でも女の名字からすればやっぱり俺はイケメンの類らしい。



名字にもそう言われるのは悲しくて、でも同時に何や嬉しかった。



「どうでも良いことあるか。でもイケメンって大変そう」

「何が」

「知りもしない、好きでもない女に呼び出されたりとか。あと不用意に彼女作れなそうなとことか。正直面倒くさそう」



少しドキッとした。俺のことを言われてるような気がしたから。


好きでもない女に告白されるんとか面倒。彼女やって一度も作ってない。

俺かて好きやと思った女くらい居った。でも俺は汚れてるから。俺は彼女なんて作ったらあかん。そいつを傷つけるだけや。



「テニス部とかイケメン過ぎて近づきたくない。周りが恐ろしいし」



胸がざわついた。

理由は、知りたくもない。知ったらいけない。苦しむだけや。



「俺もテニス部」

「財前は何つーか…同志?だからOK。それにここでしか関わってないから」



名字の中では俺はテニス部としてやなくて、サボり仲間くらいに思われてるってこと。そういう扱いを女から受けるのはやけに新鮮で、心地よく感じた。俺の中の女は悪いイメージしかないから。



女って生き物は男より醜悪なところがある、と俺は今までの経験から思っとる。あいつらは“女”を武器にする。俺ら男は女にうまく扱われとるだけ。


だから俺は諦める。抗ったりなんてしない。好きにすればいい。俺はもうこれ以上汚れることはない。墜ちるところまでもう墜ちとる。



「財前?」

「…」

「ごめん?」



窓の外から視線を移すと名字は何故か謝ってきた。しかも悪びれもしない顔で。多分謝る気はないやろう。



「何が」

「わかんないけど。怖い顔してるから気に障ること言ったかな、と」

「別に」

「あっそ」



また目を外に向ける。



最近では視聴覚室に来ると名字が居ることが多い。せやけどだからと言っていつも話しとるわけやない。沈黙もあるし、互いに違うことをやってる時もある。


女とまたこうやって話す時が来るとは思わんかった。名字の言うように同志やからなんか、それとも別の理由があるんかわからん。



でも確実に何かが変わり始めてる。



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