実際進級できないのはヤバい。渡邉センセの言うのも一理ある。
でも一日中教室にいるのはあたしには無理だった。
だから一日一時間か二時間はサボる。それ以外はちゃんと授業に出ることにした。
まぁ、出てても寝てるけど。
「授業出ることにしたんや」
「単位足りなくなったらヤバいから」
「あっそ、」
サボるのはだいたい昼休みからその後の授業にかけてが多い。ワイワイガヤガヤしてる場所はあまり好きじゃない。
ただでさえ関西の人はうるさいくらいなのに、昼休みはもっと騒がしい。
それにあたしには友達がいない。作ろうとも思ってないんだけど。だから一人であの空気にいるのは正直嫌だ。
だから昼休みに入ってすぐ視聴覚室に来て、その後も続けてサボる。だいたいはゲームしてて、時々財前も来て一緒に話したりもする。
財前は基本的に反応が素っ気ない。あたしとしてはその方がいいんだけど。変に話合わせられても鬱陶しいし。
そんな財前がモテるのは何でなんだろう。
顔は確かにかっこいい。でも財前は女の子には冷ややかな目を向ける。そんな一見冷たそうな性格なのにモテてるのが不思議だ。
「ねー、財前」
「何や」
ポケットに手を突っ込んで椅子の背もたれにもたれかかって、ぼーっと外を見てる。一応話は聞いてるみたいだけど。
あたしもあたしで後ろ向きに財前のいる机にべたっとしてる。
「女嫌いのくせに何であたしとは話してくれんの?」
「…」
女嫌いなのは普段の行動を見るようになってからすぐにわかった。敵意剥き出しというよりは視界に入れてないって感じだけど、財前の表情だとどちらも大差ない気がする。
男友達同士だとそんなに付き合いが悪い方でもないみたいで、普通に話もしてる。たまには毒づいてるけど、そんなのも込みで財前なんだと多分周りはわかって友達をやってる。
あたしと財前は似てるけど、人付き合いに関しては財前のが全然良い。
「…名字は種類が違うからええねん」
「種類?」
「…」
詳しくは話してくれないらしい。種類ってなんだ、種類って。あれか?可愛い系とかお嬢様系とかってやつかな。それとも小動物系とかかな。
まぁ、別に財前の女の好き嫌いなんてどうでもいいんだけどさ。とりあえずあたしは財前の嫌いな種類には入ってないから話してくれるわけだ。
「テニス、楽しい?」
「あ?」
「だからテニス」
女関係の話は触れられたくないみたいだから話を変える。
とは言っても何も思いつかなくて目についた財前の左腕の二つのリストバンドからテニスというワードを引っ張り出した。
「いきなりやな。…まぁ、それなりには」
「へぇ」
財前の口からテニス部の話を聞いたことは今までも何度かある。
その内容は先輩に対する毒とかが多いけど、そんなこと言いながら財前はきっとテニス部が大好きなんだとあたしは勝手に思ってる。
「テニス部ってイケメン多いよね」
もちろん財前もその中に入るし、あのミルクティー色の外ハネとか金髪とか、あとバンダナの人とか巨人とか。
財前の話でちょいちょい出てくるから通りすがりでテニスコートの横をふらっとした時に見た。確かにイケメンが多い。でも話ではいろいろ中身が残念な人もいるらしい。
「別に。変態とヘタレとホモと、」
「顔の話。中身は置いといて」
「あー…それは、かもな」
恐らく顔を思い浮かべて、肯定した。あれらをイケメンじゃないって言う人がいるなら見てみたいわ。
「財前もだけど」
「はぁ?普通やろ、普通」
「全然普通じゃないから。君十分過ぎるほどイケメンだから」
財前は興味無さそうにあたしをちらっと見てまた外に視線を戻した。
あれ、嫌だったかかな。もしかして女嫌いなんだからモテるのも嫌なのか。
「顔なんてどうでもええわ」
そう言った財前の顔は何だか複雑な顔をしてた。
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