会えないと思ってると意外と会えちゃったりする。


偶然、本当に偶然にピアスに出会った。それも教室じゃなくて下駄箱で。来るなと言われたけど仕方なくテニスコートに鍵を返しに行こうと靴を履き替えた時。



「あ、ピアス!!」



あたしをその視界に入れることなく素通りしようとするものだから、思わず少し大きめの声で呼んだ。



「俺ん名前ピアスちゃうわ」



立ち止まりはしたけど顔はしかめていた。

自分って自覚があるならいいじゃないか。あ、あたしがこの前ピアスって呼んだから自覚あるのかも。だいたいあたし名前覚えてないし。何だっけ。



「名前知らないし」

「財前や」

「気が向いたら覚えとく」



気が向く確率は非常に低いけれど。あたしがわかれば問題ないわけだし。財前なんて名前よりピアスの方が何倍も覚えやすい。だって見たままだし。



「はい、これ。ありがとう」



スカートのポケットの中を漁って目当てのものを引っ張り出した。何の装飾品も着いてないただの鍵。それでもあたしには、それにきっとピアスにも、大きな価値があるものだ。ピアスはそれを受け取った。



「自分、」

「ん?」



鍵を無造作にポケットに放り込むピアスに声をかけられた、と思う。


関西弁ってわかりにくいな。自分って自分なの?それとも相手なの?なんでそんなややこしいんだ。



「いつも授業サボってゲームしとるん?」

「まぁ、大概は。たまには散歩とかもするけど」



どうやらさっきの自分はあたしへの呼びかけであってたらしい。


あたしが授業サボって何してようとピアスには関係ない。それとも何かピアスに関係あんのか。

理解不能だ。単なるクラスメートで、しかもほとんど話したこともない異性なんてどうでもいいだろうに。



「あっそ。部活、行くわ」



ピアスはどうでもよさそうに部室の方向へと歩いて行った。だったら聞くな、とツッコミを入れたい。















でも、ピアスがあたしにサボってる時のことを聞いた意味がわかったのは次の日。屋上でサボってたあたしのとこにピアスがやってきた。

今日は視聴覚室の鍵が閉まっていた。だからあたしは屋上でゲームしてた。屋上のドアが開いてゲームから目を離してそっちを見る。

視聴覚室と教室以外で会うのは珍しいなと思いながらまたゲームに目を戻した。別にあたしに用があって来たんじゃないと思ったから。



「シカトこくなや」

「…は?」



なんて間抜けな声を上げたんだろう。うん、でも仕方ない。だってピアスが話しかけてきたんだから。



「シカトって、あたしに何か用?」



普通に考えて、ピアスがあたしに何か用があるなんて思えない。クラスメートって以外で接点なんてあるはずない。なのにシカトすんなってどういうことだ。



「名字、手」

「て?手?」



ピアスは座ったままのあたしに左手を差し伸べる。


何なに、手って何?握手でもしたいのか。それとも立ち上がるのに手を差し伸べてくれたとか。いや、それはないか。そんな紳士に見えないし。



「早よ手ぇ出せや」



ピアスは不機嫌に催促する。握手でも差し伸べてくれたわけでもないらしい。あたしは意味もわからないまま掌を上に向けてピアスに差し出す。


ピアスはそのあたしの手に何かを置いた。自分の前に手を引き戻して見るとそこには鍵。



「何これ」

「視聴覚室の鍵」

「そうじゃなくて」



わかってる。ピアスから受け取る鍵がそこの鍵なことくらい。そうじゃなくて、何で今これをあたしに渡すのか、を聞きたい。
もう一度言うけどあたしは今視聴覚室にはいない。ここは屋上だ。



「何で」

「作った」

「だからそうじゃない。何であたしに?」

「面倒やろ、いちいち返すん。あんたなら持ってても平気やし」



観察しててピアスが他人に優しくはないことはわかってた。だから多分自分のためなんだろうけど。それでもピアスがわからない。わたしは視聴覚室が空いてなければ今日みたいに他のとこに行くだけなのに。



ピアスが、わからない。



−7−


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