部長には全部話そう。好きだと気づかせてくれたのは部長だから。



「あたしたちは既にお互いの気持ちを知ってました」



あぁ、そうだ。

告白された時は本当に嬉しかった。でもやっぱり信じられなくて。

結局裏切られたから信じないのが正解だったのかもしれないけど。



「あの女の先輩と何があったかは知らないけど、財前の様子がおかしくなったのは明らかです」



あの人は多分財前の過去に関係する人で、財前がある意味忘れられない人。

そして財前を過去に縛り付ける人。


あたしには、財前があたしにしてくれたように、財前を救うことはできなかった。



「それから、あたしは…拒絶、されました」



拒絶されたことを口にするのは初めてだ。思わず手に力を入れて、ぎゅっと握ってしまった。

心臓が締め付けられるような感覚に陥って、下唇を噛み締める。



「だからもう、いいんです。友達…にも多分なれない」



諦めるって決めたんだ。

もう財前とは関わらない。



「ほんまにええん?」

「………はい」



部長のその質問に即答できるほどにはまだ気持ちが薄れてはいなかった。でもあえてあたしは部長の目を見て頷いた。

いつか、本当に無関係になるという決意を示すために。



「残念、やなぁ」



部長は眉尻を垂らして苦笑した。その笑顔は寂しそうで、哀しそう。



「あいつが嫉妬する程本気で女の子を好きになれて良かったって思ったんやで?」



あぁ、だからさっき嬉しそうに笑ったんだ。

財前を他の先輩と同等に扱うことで、財前が嫉妬すると思ったから。


でも、財前は嫉妬なんてしない。自由気ままな猫のような男だ。

あたしを好きだと言ったのも、きっと気まぐれで。あたしの手の中からするりと逃げていく。



「…もう、信じられない。疲れたんです」



追いかけるのも、ただ好きでい続けるのも。

財前はもう一人で進み始めてる。あたしのことを好きではいてくれない。

二人のベクトルは交わることはないんだ。同じように闇を抱えて、ずっと平行だ。



「名字さん」



俯いたあたしの頭に部長の手が乗った。それが優しくあたしの頭を撫でる。



「難しく考えないで、もっとシンプルに考えてみようや。ほんまはまだ好きなんやろ?」



部長の茶色い瞳を見ると優しそうに光っていた。

そんな澄んだ瞳に操られたように、あたしはゆっくり、でも確かに頷いた。



「あいつをもう一度だけ信じてくれへんかな」



あたしは初めて、財前以外の前で涙を流した。


信じたい。信じたいんだ。

一緒にいたいし。笑っていたい。好きで、いたい。

いつだって財前は優しかった。口下手で、ツンツンしてるけど、優しいんだ。

あたしを傷つけたことなんてない。いつも話を聞いてくれた。



「…好きなんです…だから、もう信じるのが、怖い…」



これ以上好きなるのが。また裏切られるのが。

あたしの中で警報が鳴るんだ。



「大丈夫。きっと、大丈夫や」



部長はにっこり微笑んで、それからあたしの涙を拭ってくれた。



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