「部長やっぱりここにいた」
「名字さん?」
保健室に入ると部長が棚に物を片付けながら振り向いた。
「どないしたん?怪我でも、」
「あぁ、違います」
キョトンとしてあたしを見て瞬きをした。その反応を見てか、奥の机にいた養護教諭がクスッと笑った。
「野暮やなぁ。白石に用があるんやろ」
目を養護教諭に移してまぁ、と頷く。
ここの学校の養護教諭は男だ。イケメンでも何でもない普通の人。
部長がたまにここを逃場にしてるって財前が前に言ってたような気がしたのを思い出したからここに来てみた。
去年も保健委員をしていた部長は養護教諭と仲が良いらしい。
「白石はモテモテやなぁ。席外したるわ」
「違うし。別に部長が好きなわけじゃない」
あたしの持つ紙袋を見て勝手な解釈をした挙げ句、保健室を出ていったけど、違う。確かにこれは部長に渡そうと思って持ってきたけど、テニス部の先輩たちに渡してもらうものだ。
「部長、これ」
「ん?バレンタイン?」
「はい。テニス部の先輩たちに。お世話になったので」
驚いたようにそれを受け取って、おおきにと笑った。
女子生徒はこの部長の笑顔にやられるんだな。そりゃこんなにイケメンがこんな笑顔してきたら好きにもなる。
なんて妙に納得してると部長が言葉を続けた。
「せやけど俺らも貰ってええん?あいつの分も入っとるやろ」
妬くやろうな、と嬉しそうに紙袋に目を落とした。
部長の言うあいつは勿論財前のことだ。でも…
「入ってないですよ」
「え!?」
「だから財前の分は入ってない」
嬉しそうだった部長は、目を見開いあたしに視線を戻した。
「もう、関係ないから」
そんなことまだ思えてないのに。本当はまだ好きで諦めて切れてないのに。
でもそう言うしかないんだ。
あたしはもう拒絶されてるから。
「…理由、聞いてもええかな?」
戸惑ったようにそう尋ねられて、部長の目を見てこくんと首を縦に振った。
−82−
戻る