目を丸くして驚く3人。
その手の上にはあたしが作ったシフォンケーキが入った小さい箱。
「ほんまに作ってくれたん…?」
あたしと箱を交互に見て、信じられないものでも見るように瞬きをする。
「…あげてもいいって言ったから」
好きな男にあげるだけがバレンタインじゃないらしい。確かにこの3人にはお世話になっているのは事実だから。
「ほんまにほんまにもらってええの!?」
「うっわ、めっちゃ嬉しい!!!」
わいわいと騒ぐ三人を見て、あたしはつい笑ってしまった。
だって何だか嬉しくて。こんなふうに思うようになることが来るなんて思わなかった。
「あ!名字ちゃんが笑た!」
「は?笑ったらいけないの?」
最近のあたしは明るくなった。
絶対そうだと思う。だから笑うくらいあってもおかしくないじゃない。
「せやかて名字ちゃんがちゃんと笑たとこ見たことあらへんもん。めっちゃレアやん」
にしし、と笑って相づちをうつ三人。
そうか。この人たちの前で笑顔を見せたことはなかったのか。
最近笑うようになったと思っていたけど、それは全て財前やテニス部の先輩の前だったんだな。
…財前にもあげるべきなのか。
でもあたしがあげたら所謂本命チョコになってしまう。それより他にももらってるだろうからいらないんだろうな。
あぁ、その前に。
あたしはもうフられてるんだっけ。てことは受け取ってすらもらえないわけだ。
そもそも一応作っとこうとか思った時点で忘れられてない。
もう会わないって決めた。視聴覚室の鍵も置いてきたし、ピアスも外して、アドレスも電話番号も消した。
あたしから連絡をとることはもうない。そして財前から連絡が来ることもないはずだ。
もう…接点はない。
「…名字ちゃん」
「何」
「…やっぱりあげへんの?」
財前に、ってことなんだろうけど。
あたしはあえてわからないふりをした。だってあげられないし。
「じゃ、もう行くわ」
部長と謙也さんと…テニス部の先輩たちにあげてくる。
いろいろお世話になったから。
財前なしでは知り合うことはなかったけど。
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