今日は最悪だ。


サボるために教室を出る前に担任に捕まった。相変わらず校則違反とサボりについて説教を受けた。


飽きないのかな。見放してくれたらいいのに。



結局一時限目が始まる前に教室を出ることができず、やむを得ず授業を受けることになった。

授業は数学。渡邉センセの授業だ。



「お〜名字ちゃんや。教室では初めましてやな」

「どーも」



いつも通りでっかい声で絡んでくる渡邉センセをウザいと思いながら、教科書をめくってみた。知った数列がずらずらと並んでる。あたしはこんなの今更習う必要ない。















「―…ちゃん、おーい。名字ちゃ〜ん」



耳元で大きな声がしてはっと目を開ける。真横には渡邉センセがいた。



「授業終いやで」



笑った渡邉センセはあたしの頭にポンと手を置いて、教室から出て行った。


何だ、あのチューリップハットのおっさんは。わけわかんない。いや、でも起こしてくれたのはありがたい。このまま寝てたら危うく次の授業まで受けなきゃいけないとこだった。とりあえずは渡邉センセに感謝しとこう。



あたしは席を立った。すぐに移動しないと次の授業の先生が来てしまう。次は古典だ。渡邉センセみたいに見逃してはくれないだろう。



「あ」



ピアスが鍵を持ってることから、視聴覚室が開いてる可能性は低かった。でもあたしのお気に入りの場所の一つだから一応行ってみた。

そしてノブを回してみれば、予想外に開いていた。中に入るとこの前と同じようにピアスが目を瞑って、同じ窓側の一番端の席に座っていた。前と何も変化がない。ヘッドフォンをしてるのまで一緒。

ピアスはあたしが入って来たのに気づかない。何かそれも癪だからピアスがあたしにこの前やったように、机をコンコンと鳴らした。ぴくっと片目を開けてあたしを見た。そしてまた目を閉じてしまった。

何も言ってこないから、ここにいてもいいってことだと勝手に解釈して、あたしも同じとこに座った。同じようにゲームを出してイヤホンをする。






その後もやっぱりこの前と一緒だった。ピアスは次の授業は出るらしく、視聴覚室を出た。同じようにあたしの前に鍵を置いて。

















あたしはいつも通り放課後まで授業をサボって視聴覚室にいた。でも少しだけ早く教室に戻った。だってピアスに鍵返さなきゃいけないから。

でも教室に行けばまた担任に捕まる。それは面倒くさい。さっさと帰りたいし。そうかと言ってテニスコートには来るなって言われたし、誰かに頼むわけにもいかない。悪用されたらあたしが困る。



ここ数日、やむを得ず授業に出た時とかにちょっとだけピアスを観察してた。ピアスはどうやらモテるらしい。

そりゃあのイケメンだしわからないでもない。でも当の本人はそんなの全く気にも止めず、良く言えばかなりマイペース、悪く言えば自分勝手に生活してる。

そんなピアスが部活なんていう縦社会で活動できるなんて、先輩たちの心が相当広いんじゃないか。



それはともかく、困った。今日中にピアスに会える気がしない。だいたいほとんどクラスメートとすら話したこともないあたしが教室で男と、しかもイケメンのモテ男となんて話してたら絶対におかしい。



あぁ、もう。面倒くさいな…。



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