あぁ、何でこんな状況になっているの。
「あ、粉入れすぎた!!!まぁええか」
「ちょ!これ何!?おもろいー」
「んー何なんやろ…」
おかしい。絶対おかしい。
今日は日曜日で学校は休み。あたしは一人暮らしだし誰にも会うはずはない。
なのにあたしの部屋にいるのは友達3人。
「…はぁ」
3人が楽しそうにキッチンでわいわいしてるのを見ると溜め息が出てしまう。
何故かうちで作ることになったバレンタインのお菓子。いや、いいけどさ。いいんだけど3人とも、酷すぎる…。
「作れないなら買えばいいじゃない…」
あたしはリビングからキッチンを見ながら再度溜め息を吐いた。
本当はわかってる。何故彼女たちがうちで作ってるのか。あたしを一人にしないためなんだと思う。
考えてみれば、財前と話さなくなったあの日から休日以外はいつも一緒にいてくれたから。
今日だってお菓子作りを口実に一人になる時間をなくしてくれたんだろう。
「名字ちゃん、助けてー」
キッチンから呼ばれて立ち上がる。
3人はあたしが料理できるからお菓子もできるとふんでいるんだ。レシピ見れば誰だってできると思うんだけど。
数時間かけて作ったお菓子はそれぞれ違う。クッキーとかカップケーキとか簡単なものばかりだけれど。
「名字ちゃん、ほんまにありがとうな!明日は名字ちゃんの期待してんで」
そう言って帰っていった。みんなは作った物はお互い知っているにせよ、渡すのは当日学校で、ということにしたらしい。
あたしは…作らなかった。
3人が帰って静かになった部屋。さっきまでの騒がしさが嘘みたいだ。
「…片付けるか」
キッチンに入って、洗い終わったボールや計量カップを片付ける。
3人はすごく嬉しそうだったし、楽しかった。
そう、楽しかったんだ。財前と離れてつまらなくなってたのに。今日は楽しかった。
虚ろになった世界に色を落としてくれた。財前じゃなくて、友達が。
好きだけど、もう無理なんだ。だったらもう想い続けるのはやめよう。未練がましいピアスなんか外してしまおう。
裏切られたって気持ちはやっぱりあるけど、でも財前は悪くないんだ。
お互いに恋愛に不向きだっただけ。恋なんてしなくても楽しくいられる方法に気づいたからもう大丈夫。
「はぁ」
キッチンから出て、外した赤いピアスを机の引き出しにしまった。
───一緒に叶わない恋心も。
「…期待、か」
クスッと笑って、しまった調理器具を取り出した。
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