裏切られたって、好きなのは止まらない。
でももう信じられない。信じたいのに、信じられない。
ゲームしてるときとか、一人の世界に入り込んじゃえば考え事をすることはなかったのに。今では暇さえあれば財前のことばかり考えている。
あの日から会話はおろか、挨拶さえもしなくなった。
どんなに視聴覚室で待っても来ることはない。
『GAME OVER』
ゲームの画面に表示された文字を見て放り投げた。そのまま机に突っ伏す。
「もう、来ないのかよ。ばーかばーか」
つまんない。何もかもが。
あれ、でもいつから楽しいと思ってたんだ。
生きてる意味もなくて、でも死ぬわけにもいかなくて。ただただルーティーンをこなしてただけなのに…。
あぁ、そ うか。
財前だ。財前が好きっていってくれて、あたしも財前が好きになって。だから楽しいって思ってたんだ。
「…ばか……好きだ、ばか…なんなんだよ……」
呟いて窓の外を見る。青空なんて広がってて清々しい冬空。
もうゲームオーバーなんて嫌だ。信じられないのに、裏切られたのに、好きなのはやめられない。諦められない。
そんな自分が一番馬鹿らしい。遠ざかった財前に未だに期待してる自分が嫌だ。
本当に馬鹿らしい。さっさと諦めればいいものを。
いつまで引きずるつもりだ。あたしは何にも固執しない。
そうだったはずじゃない。
財前のことだって、そうだ。
追わなければいい。あっちが離れていくなら、もう近づかなければいい。そうしていくうちに気持ちなんて消えてしまうものだ。
「はぁ…もう、やめよ。戻ればいいんだ、戻れば」
財前と知り合う前の、何もかもどうでもよかった自分に。
ポケットから視聴覚室の鍵を取り出して、財前の指定席に置いた。ここに財前が来たときに回収してもらえるように。
もう、ここには、来ない。
そう決意して立ち上がる。
ドアの前まで来て振り返った。
財前とあたしが楽しそうに話す光景が甦って、そして消えた。
今はもう色のある世界じゃない。一時の夢だったんだ。
あたしはまた虚ろな世界に戻る。
「さようなら…光」
視聴覚室から一歩出て、耳にある赤色ピアスに触れる。
決めたのに財前のピアスを外さないのは、あたしの戻りたくないという唯一の反抗だったのかもしれない。
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