俺は諦めて目を閉じた。
もうええ。今更何やっても意味がないんや。
おとなしゅうしとけば早く終わるんやから。
そう思って力を抜いていたら、ものごっつい音と一緒に扉が開いた。
「やっと、見つけたわ…」
そこに居ったんは息を切らした部長と師範と千歳先輩。多分師範が鍵を力づくで壊したんやろう。
「なんだ、バレちゃったの?でも光は私を受け入れようとしてるよ?」
今の俺は抵抗する気もなく力を抜いている。
俺にとって諦めの意思表示やとしても、この女にとっては受け入れたととられてしまう。
女は俺に抱きついて、三人に目を向けた。
「邪魔しないでよ」
女の香水が俺の気分を更に悪くさせる。吐き気がするわ。
「財前、自分ほんまにええんか?」
「…」
部長は近づいてきて女を睨んで肩を押し、俺から離した。
こうやっていつも俺を守ってくれるんは先輩らなんや。
「何なのよ!白石君には関係な…」
「黙っといた方がよかよ。白石、怒っとうばい」
千歳先輩の言葉に女が口をつぐむ。それから立ち上がって悔しそうに下唇を噛んで俺を見下ろした。
「光、今日は邪魔者が来ちゃったからまたね」
それだけ言って走り去っていく。
残されたんはマットに座る俺と、俺を見下ろす三人の先輩。
俺は誰とも目をあわせへんように俯いた。
「財前はん、白石はんが何に怒っとるかわかるやろ?」
師範は俺の腕を引いて立たせてくれた。
何にって俺になん?部長は襲ってきたあの女にやなくて、俺に怒っとるんか。
「…心配かけて、すんません」
「心配はかけてもよか。ばってんそうやなか」
「財前、俺らが間に合わんかったら抵抗するつもりなかったやろ」
部長の指摘にはっとする。
男の俺が敵わへん筈はないのに、端から抵抗することを諦めとった。
「また昔に戻るつもりなん?」
「…」
昔…戻りたくはない。
せやけど俺はもう何も知らない俺には戻れへん。
「…っ!ええ加減にしろ!」
部長が右手で俺の頬を打った。俺はよろよろとしてまたマットに座り込んだ。
「いつまでこんなん続けるつもりやねん。いつまで…財前は苦しむんや」
部長は手を握り締めて俺に背を向け、出口へ歩いていく。
「名字さんも心配しとるからちゃんと連絡しときや」
そのまま体育倉庫から出ていった。
「白石はんは多分財前はんを守りきらんことに腹が立っとるだけや」
師範はまた俺を立ち上がらせてくれて、笑った。
俺はどうしようもなく泣きたくなった。
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