床に転がるオレンジ色のピアスが窓から差し込む明かりできらきらと光る。

しゃがみこんで、名字のピアスを指でつまみ上げ、目の前まで持ち上げた。



「俺やってあんなん言いたいわけないやん…」



ぎゅっと目を瞑って深く溜め息を吐く。部長に叩かれた頬がズキズキと痛んだ。


そうや…部長に、怒られたんやった…。


俺はさっきあの女とあったことを思い出して、名字のピアスをポケットに入れた。















運動用マットの上に尻餅をついた俺に乗っかるようにしてあの女は近づいた。



「ねぇ、光…私の心臓の音聞こえる?」



甘えたようなこの声が嫌い。たっぷりと色気を交えた標準語も気持ち悪い。

それでも俺はこの女の声に、言葉に恐怖を煽られて動けなくなってまう。



「懐かしいね。私が卒業してからも荒れてたらしいじゃない?」

「…」

「そんなに私がいないの辛かった?」



ふふっと笑う勝ち誇った顔で俺の上半身を押し倒し、馬乗りの状態になった。


実際、先輩らが卒業した後の俺の荒れようは酷かったやろう。もうどうでもよくなっとった。

自分の体も心ももう汚れてた。


中3になって少したった頃には、俺は「来る者拒まず去る者追わず」の都合いい男になりさがっとった。

せやからヤりたい女どもが寄ってくるし、俺はそれをも受け入れてた。


そもそもの元凶はこの目の前に居る女や。



「私がどうして今になってやっと光の許に現れたと思う?」



楽しそうに言って、俺の片方の手の指に自分の指を絡めた。そしてあいとる方で俺の頬を撫でた。

ゾクゾクとした気持ち悪さが背筋を走る。


あかん…、吐き気がする…。やっぱり名字以外に触れられるとあかんのや。



「今更…何の用や…」



俺は何とかそれだけを口にして荒い息で女を見上げる。



「やっとこれたってだけ。このチャンスを待ってたの」



女が言うには毎日先輩らに監視されてるような状況やったらしい。

テニス部の誰かが必ず見張ってた。せやから俺は何の害もなく、のうのうと生活できてたんや。


そして、今日やっと隙ができた。

部長と副部長は部長会議。謙也さんと師範は委員会。ラブルスの二人はお笑いのネタの話し合い。千歳先輩は教師に呼び出し。

全てが偶然今日で、女の監視が外れた。



「さぁ、久しぶりに楽しもう?」



そう言って女の顔が俺に近づいてきた。



−75−


戻る