「財前!!」
あたしはドアの開いた音と同時に立ち上がった。ドアを開けた犯人は財前で、そのまま無言であたしに近づいて来る。
細いのに綺麗に筋肉のついた両腕が伸びてきて、あたしが動く前にその腕に捕らえられた。財前は腕をあたしの背に回し、頭をあたしの肩に埋めるように抱きついた。
「ざ、ざい…ぜん…」
恐らく今あたしの顔は赤い。付き合っていないとはいえ、仮にも好きな男に抱きつかれているのだから。
でも嬉しくなんかない。財前が今いつもと違う心境にあるのはわかる。
だって手がほんの微かにだけど震えてる。いつもは毒舌を吐いてあんなにふてぶてしい財前が、これ程までに弱っている。
「財前…」
「…………」
「大丈夫、だから。ここにはあたししかいない」
だから我慢しないで。恐れることは悪いことじゃない。
そっと手を財前の背中に持っていく。触れることに一瞬躊躇したけどそのまま抱き締め返した。
財前の身体はぴくりと反応したけど、その後腕の力が増した。まるで何かにしがみつくように力が入る。
「……悪い」
そう言って財前が離れたのはだいぶ時間がたってからだった。財前は俯いて目を合わせようとはしない。
それでもいつの間にか財前の震えはおさまっていた。
「…あー……」
気まずそうに顔を歪めて、唇を舐める。そんな珍しい財前の仕草にあたしは小さく息を吐いた。
「部長とは会ったの?」
「は?」
あまりにも話しづらそうにするからあたしから話を持ちかけると、財前はやっと顔をあげた。
無理に何があったかなんて聞かない。話したくないなら話さなくていい。
「部長たち、探してくれてたから」
「…あぁ、部長らに助けられたんや」
「そう」
どうやら部長は財前の救出に間に合ったらしい。良かった。きっと最悪の事態は免れたんだろう。
「名字…」
財前はあたしの目を見た。それもひどく憂いを含んだ目で。
何、いったい。今から何を言おうとしてるんだ。
「予約はキャンセルや」
「は?」
耳に入ってきたのは意味のわからない言葉。でも財前の次の行動でわかってしまった。
財前は自分の耳からピアスを外した。それはあたしが渡したオレンジ色のピアスだ。それからあたしの手をとってその上にそれを乗せた。
「これも返す」
あたしの手には太陽の光を反射してキラキラと光るオレンジ色。
それに目をやって、もう一度財前を見た。
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