結局部長からの連絡は来ないまま授業が終わった。


あたしが役に立たないのはわかってる。でも教室でじっとしてるのはいい加減つらい。

好きな人を気にしてしまうのはおかしいことなのかあたしにはわならないけど、それだけ財前はあたしにとって大切な人だ。



初めて信じてみようと思った人。

好きになって一緒にいたいと思った人。



昔のあたしからしたら考えられないけど、あたしは財前のおかげで変われたんだ。今まで誰かをこんな必死に捜したり心配したりしなかったのに。


全部財前だからなんだ。


そんな財前を放って置けないのはきっと当然のことだ。



いてもたってもいられず、かといって部長に探すなと言われてしまったあたしはとりあえず視聴覚室に来た。ここなら連絡が来たらすぐに動けると思ったから。



一人で視聴覚室にいるとき、あたしは決まってゲームをしていたのに今はただ携帯を握りしめているだけ。

いつもまるで自分がゲームの中のヒーローかヒロインになったように妄想して、必要とされてるって思う毎日だった。そうでもしないと自分の存在を認められなかったから。

結局あたしは自分が一番信じられないんだ。他人を信じられないのは愛されなかったから。他人を信じられない自分が嫌い。

あたしは自分すらも愛すことはできない。


でも財前は言ってくれた。好きだって。

その言葉にあたしは少し救われた。財前を信じたい。財前に全部を話して認めてもらいたい。


ねぇ、財前…。あんたは何を抱えてるの。あたしだって財前の役に立ちたい。



両手で握りしめた携帯が音を鳴らした。慌ててディスプレイを見ると、部長ではなくて財前本人からの電話だった。



「財前!?大丈夫!?」



叫ぶように聞いても何の返事もない。だからあたしはもう一度名前を呼んだ。そしたら静かに返事をした。



『…名字、今どこや?』

「視聴覚室だけど」

『わかった』



それだけ言って財前は電話を切ってしまった。かけ直しても出る気配はなく、無機質な電子音だけが鳴っている。


声色からは財前が今どんな状況なのかわからない。でも一つだけわかった事がある。

今確実に財前にとって良くないことが起こった。あの女の先輩はやっぱり危険人物で、行方不明だった財前に何かをしたんだ。


いったい、何を…。


そんなあたしの思考を遮ったのはドアが荒々しく開く音だった。




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