帰ろう。
そう思ってゲームをしまう。目についた机の上の鍵。
あぁ、鍵締めて返さなきゃ。
面倒くさいと思ったけど、その鍵を手にとった。
教室に戻ってもピアスの姿はない。
鍵どうしよう。今日中に返すべきだよなぁ。
「ねぇ」
「どうしたん、名字さん」
近くの席のクラスメート。名前わかんないからとりあえずクラスメートAで。村人Aみたいな。わかんないというより覚える気がないだけだけど。
「ピアス、どこにいるかわかる?」
「ピアス…あぁ、財前君のこと?」
ザイゼン、そんな名前なのか。多分、と言って頷くと部活に行ったことを教えてくれた。
「テニスコートに行ったら会えるで」
ピアスはテニス部なのか。Aにお礼を言ってあたしはテニスコートに足を向けた。
一応学校のどこに何があるかは把握してたから迷わずテニスコートに着くことができた。当然部活中なわけで。
あたしは邪魔したらいけないかなと思いながらも、さっさと鍵を返して帰りたいから話しかけることにした。
「すいませーん」
とりあえず近くにいた金髪に話しかけた。
彼はびっくりしたようにあたしを見て、ちょお待ってなと言って他の人を呼んだ。あたしの前に来たのは色素の薄い髪色のイケメン。
そういえばさっきの金髪もイケメンだった。この2人といい、ピアスといい、テニス部はイケメンが多いのかもしれない。
「どないしたん?悪いけどマネージャー志望とかはお断りやで」
優しい声をしてるくせにどこか冷たい雰囲気。何だ、この人。
「いや、そうじゃなくて。ピアス…ザイゼンってのいますか?」
誰がマネージャーなんて志望するか。そんな面倒くさいことはこっちからお断りだっつーの。さっさと鍵を返して帰ろう。
「財前…?」
顔色が変わった。ちょっと怒ってるような。あれ、あたし名前間違えたかな。ザイゼンじゃなくてゼンザイだっけ。
「いや、ゼンザイ?あれ?ザイゼン?」
人の名前を覚えるのは苦手だ。興味がないから。知らなくてもあまり困らないし。
「自分、財前に何の用や」
明らかに敵視されてるのはわかった。名前を間違ったとかじゃないみたいだ。イケメンはあたしを上から下までじろじろと見て顔をしかめる。
何でいきなりこんな睨まれないといけないんだ。あれか?あたしの見た目がよくないからか?そりゃ確かに髪染めてるし、ピアスしてるし明らかに素行悪そうだけど。
いきなり見ず知らずの奴に睨まれるいわれはなくないか。
「部長、そいつただのクラスメートっすわ」
声がした。睨んでくるイケメンの後ろで。イケメンは振り返ってピアスに近づいた。
何か話してるけどよく聞こえない。2人の間で話が済んだのかピアスはあたしに視線を移した。
「名字」
ピアスはついて来いと言うようにテニスコートから出て行った。あたしの名前知ってたんだ、とか思いながらピアスのあとを追う。
少し歩いてからピアスは立ち止まった。
「何や」
ピアスもさっきのイケメンほどではないけどあたしを敵視した目で見る。何、さっきから。
「あ、鍵」
ポケットから鍵を出してピアスに渡した。ピアスはびっくりしたように目をぱちくりさせてそれを受け取った。
「このために来たん?」
「そうだけど。今日中に返した方がいいかと思って」
ピアスはその鍵を自分のポケットにしまって何か安心したように息を吐いた。
「もうコートには来んなや」
やっぱり邪魔だったんだろう。少し不機嫌にそう言ってテニスコートに帰ろうとする。言われなくてももうテニスコートには行かない。あたしには関係のない所だし。
「ピアス、鍵ありがとうね」
後ろ姿にお礼を言ってあたしも帰ることにした。
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