席替えで名字と近い席になって俺らは休み時間にもよく話すようになった。最初こそ周りに好奇な目で見られとったけど今ではそこまででもない。

俺が名字を好きなんは明らかやし、隠そうともして無かったからええ。


けど俺は思い違いをしてた。俺が恋愛なんてしてええ筈がなかったんや。



『光』



移動教室の授業の後、教室に戻ろうとした時にすれ違い様に俺の名前が呼ばれた。

その声は間違うことのないあの女の声やった。反射的に振り返った先には、記憶の中の忌々しい女の姿があった。

あの女は驚く俺に不敵な笑みを向けてそのまま去っていった。



あの女がこの高校に居るんは知っとった。

ほんまは違う高校行くかも迷ったけど、俺は先輩らと全国優勝をするために推薦を蹴った。あんな先輩らやけどほんまはめっちゃええ人らやから。


入学して暫くは正直びびってた。いつまた同じことが繰り返されるんやろうって考える毎日やった。

せやけど何ヵ月たってもあの女は姿を現さなかった。もう俺には飽きたんかってほっとしてたんに。

さっきのあの女の声で確信した。未だに俺を諦めてへん。



忘れてたんや。俺が、汚いってこと。

純粋に人を好きになってええわけないんや。付き合うとか好きになってほしいとか、望んだらあかん。


それにそれよりもあの女に俺が名字のことを好きになってもうたことを知られたらヤバい。

何をするかわからん。


だから俺は二年に見られる可能性がある所で名字と話すのは控えた。



せやけどとうとう恐れとったことが起きた。俺の教室にあの女が来た。



「やっと会えたね」

「…俺に何の用ッスか」



呼び出されて無言でついて行くと体育館倉庫で止まった。

あの女が鍵を閉めたんに、ヤバいと思った。



「何の用だなんてわかってるくせに」



気持ち悪い笑みを浮かべて俺に近づいてくる。それに合わせるように俺は後退する。

後ろを見とらんかった俺は運動用マットの縁に躓いてその上に尻餅をついた。


また…また繰り返されるんか。あの時と同じや…。


俺はすぐに立ち上がろうとしたけど、女はしゃがんで目線を合わせると怪しく笑た。それで俺は凍りついたように動けなくなる。

2年前を思い出して情けないことに恐怖が思い出されてしもた。


今俺が本気で抵抗すれば女に負ける筈がないのはわかっとんねん。せやけどどうしても身体が動かへん。


拒否したいのに、できない。





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