財前の様子がおかしくなったのは部長と話をして数日してからだった。
視聴覚室と教室以外で話しかけて来なくなった。廊下を一緒に歩いたりはしない。それに笑わない。
理由を聞いても別にと答えるだけで、教えるつもりはないらしい。
「財前、やっぱり変」
「別に」
つい最近の席替えで近くなったあたしたちは休み時間もよく話す。けどどこか上の空だし、適当に流される。
「財前、女の先輩呼んでんで」
昼休みにドアの近くにいた男子の声に財前はびくりと反応した。
ドアの所には綺麗系の先輩。長い茶髪をくるくると器用に巻いて、化粧もばっちり。短いスカートから細い足が惜しげもなくさらされている。
財前はその人を見て無表情で立ち上がって教室を出て行った。
「先輩にもモテモテやな、財前君」
「また告白か。先輩らも懲りひんな」
大人びた印象を持たれる無愛想な財前は年上に人気がある。多分同学年よりも先輩に告白されていることの方が多い。
告白されるのは別に構わないのだけれど。そもそもあたしが財前の行動に干渉する権利はないし。でも気にはなる。
それは財前の返答ではない。どうせばっさり断るのは明白だからそこを心配してるんじゃない。
そうではなくて財前自身が気になる。部長の話を聞いてまだ財前の心の傷は深いままだと思ったから。
「名字さん!!」
いきなり名前を呼ばれて吃驚して振り返ると部長がいた。しかもかなり焦ったように。ちょっとやそっとじゃ息切れなんてしないだろうにはぁはぁと肩を上下させている。
「部長、どうして一年の教室に?」
学校中で有名な部長があたしなんかのところに来たものだから、クラスメートは目を白黒させてあたしたちを見ている。
「財前、知らへん?」
「財前ですか」
何をそんなに慌てているのだろう。財前なんて携帯に連絡すればいいのに。ていうか財前が告白されてるのが部長にそんなに関係あるのか。
「女の先輩に呼び出されてましたけど」
「…っ!!どんな奴やった!?」
「え、っと」
「なぁ!!名字さん早よ!!」
部長の剣幕に気圧されておろおろすると部長は苛立ったように怒鳴った。
こんな部長見たことない。
クラスメートもさっきとは違った意味で目を見張っている。
「茶髪を巻いてて綺麗系の人でした」
あたしは近くにいたクラスメートに確認するように振り返ると、その子もコクコクと頷いた。
それを見て部長は一瞬青くなって教室を飛び出して行った。
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