いつものように視聴覚室で二人してサボって他愛ない話をしている。
それは前と変わらないけれど、あたしの定位置は財前の前に移動した。
話してない時もあたしはその席に座るようになった。少しの時間でも近くにいたいから。
財前も何も言わないし。ちょっとだけ距離が縮まったのかもしれない。
その他愛ない会話の中で思い出したようにファンがどうたらの話をしてみた。
「…と言われたわけなんですが、財前君、どうしてくれるのかな」
「勝手にさしとけばええやん。どーせもとから友達なんておらんくせに」
「あ、それ今言っちゃうんだー。言っとくけどあたしは友達がいないんじゃなくて作らないんだよ」
しかもちゃんと友達いるし。三人。あ、財前いれて四人か。
てかそんな恐ろしいファンがいる四天宝寺中出身の皆さんは女友達とかいたのか。
やっぱりイケメンは面倒だ。
「イケメンって本当面倒だな」
「部長なんて誰にでも優しいからヤバかったで」
「あー想像つく」
あの素敵悩殺王子スマイルで周りにいる全ての女子のハートをつかんでそう。恐ろしい…。
「財前は?ファンいたんでしょ」
「まぁ…居ったけど。部長らのとはちゃう意味で頭イっとったな…」
思い出して忌々しそうに目を細める。
財前の女嫌いにはファンが関係してるのかもしれない。だったら触れられたくないことだったか。
「あっそ。じゃさ、試合の応援とかすごかった?」
財前は元の顔に戻って過去を思い出す。
よかった。話変えられた。思い出したくないことなら話してくれなくてもいい。財前が話したいと思った時に聞ければそれでいい。
「応援は男女共すごかったで。そうや、今度四天宝寺中行ってみるか?」
「連れていってくれんの?」
財前たちの母校、四天宝寺中。
そこに連れていってくれるなんて誘いが来るとは思わなかった。
「後輩も見に行くついででええならな」
「ぶっ。財前が後輩指導とか…あはは」
思わず噴き出す。
だってあんな毒舌で指導なんかされたくないって。そりゃテニスは上手いんだろうけど。
財前が何か教えてる姿が想像できない。
「…」
「あ、怒んないでよ。ごめんごめん」
あたしを見てるから笑ったことに怒ってるのかと思った。
でも謝ってもあたしをじっと見つめたままで、あたしの顔から笑いが消える。
「財前…?」
「名字よう笑うようになったな」
窺うように名前を呼ぶと黙って考えていたことをぽつりと口にした。
笑うようになった…
確かにそうだ。あたしはこの地に一人で来て変わることができた。
「最初の頃は何も興味示さへんし無表情でゲームやっとる奴やったのに」
でも、この変化は財前がもたらしたものだなんて、きっと本人は気づかない。
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