あたしの過去を話したからってあたしと財前の間自体に何かが起きることはなかった。
あたしは冬休み前の生活に戻った。
出来るだけ授業に出るようにしたし、サボる時は視聴覚室に行く。友達三人とも話すしお弁当も作るようにした。
けれど、一つだけ変わったこと。
「名字、はよ」
「おはよう」
今まで教室で話しかけて来ることはなかった。もちろん用事があっても。
メールで連絡したりしてあたしたちに接点があることは誰にも知られないようにしてた。
謙也さんと関わりを持ったのは周知のことで、その関係で財前の名前を覚えたのだと友達には言っていたけど、やっぱりあたしが財前と話すのは不思議らしい。
「財前君、最近よう名字ちゃんに話しかけとるよね」
「うん、もしかして気ぃあるんとちゃうの?」
「名字ちゃんに話す時顔ちゃうもんね」
終いには勝手なことを言い出す三人。
まぁ、あながち間違ってはいないけど。女の勘は鋭い。
「何を馬鹿なこと言ってるの。財前がそんなわけないでしょ」
「ちゅーか付き合ってたりせえへんの?」
「は?ないない」
「ふーん」
髪の毛で隠れてる耳には同じピアスともらったピアスがついている。それが見られたら確実に誤魔化せない。
「絶対財前君は名字ちゃんを気にしとると思うんやけど」
「気のせい」
財前はわかりやすいらしい。
というより他の女子と話さないからあからさま過ぎる。
別にあたしに何か害があるわけじゃないからいいけど。財前的には大丈夫なんだろうか。
「うん、そうやんな。でも女の子と話すようになったらまた人気上がるやろね」
今までは近づくなオーラ全開で特に女子たちには一瞥はくれることはあるものの、話すなんて以ての外だった。
そんな冷たい態度の筈の財前は何故か人気で告白してくる女子は絶えない。
まぁ、ばっさり断ってるみたいだけど。
人気が上がったら、財前が部長たちみたいに大っぴらに黄色い声を上げられるのを見ることになるのか。告白とかも増えるだろう。
それはちょっと、嫌だ。
それより財前、本当に大丈夫かな。あたしのせいで大変なことにならないといいけど。
「名字ちゃん、気ぃつけや」
「何が」
「財前君に話しかけてもらえるっちゅーのは財前君ファンに狙われてもしゃあないことや。友達だった人とかも嫌がらせしてくるらしい」
「財前ファン…そんなもんいるの、あれに」
あたしの目に映るのは自分の席でクラスメートと話しながらニヤリと笑う財前の姿。
あの嫌みったらしい笑い方でも十分財前の魅力を引き立てる材料になる。元が良いと何をしてもかっこよく見えてしまう。
ファンがいてもおかしくはないか。
「四天宝寺中出身のテニス部なんてみんなファンおったらしいで」
「四天宝寺中出身…」
「部長の白石先輩とか忍足先輩とかね」
あぁ、納得。確かにイケメン揃いだ。
財前の話をしたあの場にいたのは多分みんな四天宝寺中出身だ。
ファン、ね。確かに気をつけるにこしたことはない。
でもあたしが財前ファンの怖さを知るのはもう少し後のことだった。
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