財前に親のことと自分のことを話してあたしは泣き出してしまった。
財前はそんなあたしの頭を黙って撫でる。
下手な言葉を掛けないあたり財前らしいし、頭に乗った手は口程にモノを言っていた。
「財前の前では泣いてばっかり」
「ふっ、泣き虫」
「違うし」
柔らかく笑う顔が優しくてなんだか照れる。
これが壁を取っ払った財前なんだろうか。教室とかでこんなに優しい顔した財前は見たことない。
「財前、手出して」
「あ?」
「いいから」
意味も分からないままあたしの言うとおりに手を出す。あたしは右耳のピアスを外して財前の手の上に転がした。
「持ってて」
「は?」
「そのピアスは大事なものだから。財前が半分持ってて」
あたしの両耳に光るオレンジ色のピアスは決意のピアス。
一人で生きていくと決めた時にわざわざ少し高いのを買った。その時の気持ちを忘れないように。戒めのつもりで。
でもあたしが人を信頼できるようになったら一人じゃなくなるから。あたしは財前を信じたいから敢えて財前に渡す。
「…」
財前は無言でそのピアスを見つめる。それから左耳につけているピアスの一つを外してそこに付けた。
「ほら」
「え?」
今し方外した赤いピアスをあたしに渡す。
「そのままやとピアスホール塞がってまうやろ」
付けろってことらしい。
いいのか、つけて。付き合ってもないのに同じピアスなんかつけてるって。
「いいの?」
「ええ。つけてろ」
あたしは財前の言葉に従って右耳に財前の赤いピアスを付けた。
左右違うピアスなんてちょっとちぐはぐだけど。でも嬉しいからいい。
「いつか、俺も話すから」
「うん?」
「俺の過去。まだ話されへんけど」
「うん」
話を聞いてもらうだけで救われることもある。
少なくともあたしはそう。今財前に話して少し楽になった。同情とかされたくなくて話してこなかったけど、財前は同情はしなかった。ただ真剣にあたしの言葉を聞いていただけ。それだけでも救われた。
財前が女嫌いになった理由。それがどんなものか分からないけど。でも同じように過去に苦しめられる財前をあたしは少しでも救ってあげたい。
あたしにそうしてくれたように。
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