初めて告白した。中学で女が信じられへんくなった俺はもう一生女を好きになることはないと思ってたのに。

けど、一風変わった女を、名字を好きになった。



「本気…?」

「あぁ」



戸惑いの瞳で俺を見上げる名字をまっすぐ見つめて頷く。

今まででこんなにも気持ちが届いて欲しいと思ったことはないやろう。



「あたし…」

「おん」

「…っ付き合えないから」



返って来たのは予想通りの言葉。端から付き合えるなんて思って来なかったし。

でもただ傍にはいたい。友達でええ。男としてやなくてええから。

名字がつらいときは一緒に居ってやりたい。名字は意外と泣き虫やから。


「別にええ」

「でも、財前が嫌いなんじゃないから」



それはええ意味で捉えてもええんやろうか。嫌いやないってことは…



「むしろ…す、きだけど…あたしは誰とも付き合えない」

「好き、って……?」

「財前が好きだよ!!本当なら付き合いたい。でも今は付き合えない」



今はってどういうことや。

今後もしかしたら付き合えるかもしれへんってことでええんか。



「あたしの心には欠陥があるから」


それは聴こえるかどうかわからんほど小さい声やった。



「両親は世間体の為に離婚もしないけど、もう何年も会ってない。でもそれは今に始まったわけじゃない。生まれた時からそうだった」



珍しく饒舌で、自分のことを話す。うちの学校で名字のことを知っとる奴は多分居らんやろう。

それも楽しい話やない。今までずっと耐えてきた名字の苦しみ。



「小学校に入って数年して気づいた。うちは普通じゃないって。それでも中学までは義務教育だから実家にいた」



淡々と話してはいるけど抱えるように組んでる腕は震えとる。

名字はその場にストンと腰を下ろして話を続ける。



「大阪に来てもあたし自身は変われない。今まで16年間こうやって生きてきたんだから。独りは嫌い。でも、失うのが怖いから近づけない…」



俯いて今にも泣きそう。手をぎゅっと握りしめて泣くのを多分我慢しとる。



「同情なんていらない。されたくない。だから誰にもこの話をしたことはない…」

「名字…」



俺は名字に目線を合わせようとしてしゃがんで顔を少し覗き込む。その目にはやっぱり涙をいっぱい溜めて、必死に堪えるように下唇を噛んでいた。



「あたしは人を信じられないから。愛されてこなかったあたしはそんな心が欠けている」



そしてぽつりと呟いた。



“寂しい人間でしょ…?”



自分は欠陥があると言った。

愛されたことがないから人を信頼できない、と。


でも俺には話してくれた。少しは信頼してくれとるってことやろ。


せやから俺は…



「待っとる」

「え?」



俯いてた顔を上げて仰山涙が溜まる目が俺を映した。



「名字が人を、俺を完全に信頼できるまで。やからそれまでは友達でいようや」

「…いいの?」

「俺はそうしたい。その時まで名字の隣は予約やな」



頭に手をおくと名字はついに泣き出した。

俺はただずっと頭を撫で続けた。



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