先輩たちの言葉を頭の中で反芻しながら帰路につく。
日の短い冬だから学校が終わった頃には既に夕方。そしてあっという間に暗くなる。
「……ふざけんな」
何が大事だよ。何が特別だよ。あたしは財前の何でもないのに。
先輩たちは言いたいことだけ言って。
あたしは、一人でいたいのに。
『お前は人と関わりたないなんて思ってへん』
ユウジ先輩の言葉があたしの凍った心に突き刺さる。
どうしろって言うの。あたしが人に関わると迷惑にしかならないのに。
「は…?」
「やっと来た」
マンションのロビーで待っていたのは今一番会いたくない人。ロビーにあるソファーに座っていた。
何でいるの。オートロックもかかってるマンションなのに。
「管理人が入れてくれた」
「…あっそう」
あたしの疑問に答えるように説明をくれた。
財前は二度うちに来てるから管理人さんが覚えてたんだろう。
「部活は」
部長には委員会って聞いたけど委員会にしては早すぎる。
「…出るな、やて。部長命令や。頭冷やせって。今の俺が居っても邪魔やから」
「へぇ、そう。じゃあね」
自分でもテニスが酷いのは自覚してるらしい。
でも話す気はない。あたしには関係ないことだから。早く入ってしまおう。
「名字」
歩き出したあたしは名前を呼ばれて立ち止まってしまう。どうしても目の前にいると無視できないのは、好きだから。
だから会わないようにしてたのに。
「話がある」
「あたしはないんだよね、残念」
財前を通り過ぎてエレベーターを待つ。それを追って来てまだ話しかけてくる。
「…名字頼む」
苦しそうな声で頼むなんて言う。整った顔を歪めて。
そんな顔は見たくない。
「はぁ…仕方ない。とりあえずうちに入ろう」
エレベーターで上がってあたしの部屋に入る。
財前は黙って付いてきて、お邪魔しますだけ言ってリビングに入った。
「話って何。あたし無駄な話は受け付けないから」
「あぁ…わかっとる」
それから押し黙って何かを思案する。
あたしは早く言うこと言って帰ってほしいんだけど。
「俺………名字のこと好きやから」
「………………は?何、言ってんの」
好きってどういうことだ。
友達的な意味で?それとも恋愛的な意味で?
でもどっちにしても関係ない。財前は友達未満だ。好き、とかない。
「やから、女ってわかっとるのに名字には触れたい」
「え…?」
じゃあ、まさか、本当に…。
あたしにだけ触れることができたのは女として見てないからじゃなくて、好きだったから?
「名字が、好きや」
財前は真剣な瞳であたしを見ていた。
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