名字が何考えとんのかさっぱりわからん。


俺の前であんなに泣いとったのに。

冬休み中は電話してもメールしても連絡着かんかったし。部活の後何度か家まで行ったけどそれもハズレ。

挙げ句の果てに学校始まって理由を聞けば、俺には関係ない。


ほんま何なんや。



「くっそ、あかん」



ショットはラインから出てアウト。さっきからミスってばっかりや。



「財前、ちょお休みや。そんな状態でやっても無駄や」

「……はい」



部長に言われてベンチに座る。

コートを走る先輩らを見て、自分が何をやっとんのかわからんくなった。


冷静になれや、俺。

やたらイライラして溜め息を吐いて。こんなんが続いたら確実にレギュラー落ちする。


テニスにまで支障が出るってどんだけ俺は名字を気にしてるんや。



冬休みが明けてから前の名字に戻りつつある。


授業は殆ど出えへんし、昼飯も多分食うてない。恐らく視聴覚室かどっかでゲームしてあのごっつ甘い飴で凌いでんのやろう。


関係ないと言われてからまだ俺は一度も視聴覚室に行ってない。てか行けへん。

もし名字と会っても何話してええんかわからんし。


それでも教室にいれば目で追ってる自分がいる。



「名字ちゃん!!」



あいつの名前が聞こえるだけで教室を見渡す。

茶髪を揺らす冷めた表情の名字を見つけて、目を逸らす。



「何」

「今日はお昼一緒に食べようや」

「ごめん。無理」



それだけ言って教室をさっさと出て行く。


クリスマスの後何があったんや。



あの日目が覚めたら名字はベッドに居らんくて。慌ててリビングに行けば呑気にコーヒーなんて飲んでいた。

名字がいなくなる、なんて思って慌てた俺は柄にもなくほっとしたのを覚えとる。



あの時は何もなかったのに。
問いただしたいけど名字には近づけへん。


一週間前教室から連れ出した日も名字とどういう関係なんかクラスメートに散々聞かれた。


よく考えればそらそうやな。

俺は普段一切女と話さへんし。いきなり女に話しかけたと思ったら相手は口数の少ない名字やし。



もしかしてこのまま関係がなくなるのをあいつは望んどんのか。

そのために連絡できなくしたり、態度を変えたりしたのか。


でも何でや。そういう考えなら何で急に。まさか俺が…触れたから?

触るなとか言っといてめっちゃ触れてた。それが嫌やったんかも。

好きでもない異性に触れられる気持ち悪さは俺が一番知っとる。



俺は好き、やから。でも名字はちゃうよな。

結局、自業自得か…。



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