年が明けた。それから間もなく冬休みも明けた。



「名字ちゃん、あけおめー」

「あ、うん。あけましておめでとう」



相変わらず声をかけてくれる友達三人に新年の挨拶をして席に着く。

今日の始業式はサボらないつもり。必要以上に財前に近づかないためにも。



「おい、名字」

「あー財前。あけましておめでとう」



今にも血管が切れそうな程青筋をピクピクさせてあたしを睨んでいる。

理由はわかってるけどさ。そんな怒らなくてもいいじゃない。



「ちょお来い」

「はぁ?これから始業式でしょ」

「サボる」

「ちょっと!!」



無理やり手首を引っ張られて立たされる。


ざわざわとうるさかった教室が一瞬で静かになった。その視線を集めてるのはあたしたち。


あぁ、もう。何やってんの、こいつ。


財前はそんな視線もお構いなしにぐいぐい引っ張って、気づけば視聴覚室についていた。そこでやっと手を離した。



「何なの」



あたしはわかっているのにしらばっくれた。



「それはこっちの台詞や、どアホ」

「意味わかんないから」



ぎらついた視線で睨まれて言葉をなくす。

嘘が見透かされてるみたいで必死に冷静を保とうとした。



「何なの。説明して。怒ってる理由がわからない」

「っ!!」



財前は近くにあった机を蹴飛ばした。

机がガシャンと大きな音を立てて吹っ飛んで、あたしは体を震わす。


怖い…。


こんなに財前を怖いと思ったことはない。


でもそこまで怒るなんておかしいでしょ。あたしたちはただの友達なんだから。



「自分、何なんや、ほんまに!!あんなに泣いといて。それなのにあれ以降連絡一切着かへんし」



そう、あたしは一切の連絡手段を断っていた。


携帯の電源は切りっぱなし。家からも殆どでない。インターフォンが鳴っても全て無視。


食べ物だけを買うために敢えて中途半端な時間に外に出るくらい。おかげで誰にも会うことはなかった。


そしてあたしは元の名字名前に戻った…つもり。



「別に連絡つかないくらいあるでしょ。それに実家に帰ってたし」



嘘。実家なんて帰ってない。あそこには何もないし。



「てか財前には関係ないじゃん。あたしが何しててもさ」



ただの友達。

ただのサボり仲間。


財前があたしに干渉する理由なんてない。



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